第15話(第2章第2話):初陣!夫の『初めてのおつかい』とトラップ回避
作戦開始時刻、土曜日午前1030(ヒトマルサンマル)。
『参謀』として正式に着任し、意気揚々とやる気をみなぎらせる夫。
本日、我が『朝倉家共同司令部』から彼に下された最初のミッションは、
今夜の夕食および週末の備蓄を整える『スーパーマーケット補給作戦』であった。
「よし、アオイ!俺の参謀としての初陣、見事に果たしてみせるぜ!買い物なんて
指示された物をカゴに入れるだけだ、楽勝楽勝!」
胸を張り、鼻息荒く宣言する参謀。
「……甘いわ、参謀。
スーパーという戦場をただの『棚から物を取る場所』だと思ったら大間違いよ」
私は冷ややかな、しかし真剣な眼差しで、一枚の紙――
『作戦指令書(買い物リスト)』を夫に突きつけた。
「スーパーは一見平和に見えて、初心者をハメる『スペック違いの罠』や
『類似品のトラップ』が張り巡らされた危険地帯なのよ。
特に以下のポイントを厳守しなさい」
【作戦指令書:厳守スペック】
・『本みりん』(みりん風調味料は不可)
・『豚ひき肉・赤身率80%以上』(脂身だらけの安売り品は不可)
・『木綿豆腐』(絹ごし不可・麻婆豆腐に使用のため)
・『食パン(6枚切り)』(5枚や8枚は不可)
「え……みりんって『みりん風』じゃダメなの?豆腐も『木綿』指定……?」
戸惑う参謀に、私は追い討ちをかけるようにスマホをかざした。
「現場で判断に迷った場合は、直ちに本部(私)へ画像付きで暗号通信
(LINE)を打ちみなさい。
間違えた物資調達は我が国の献立計画(予算と調理プロセス)を崩壊させるわ!」
「り、了解!初陣、行ってきます!」
作戦指令書をポケットにねじ込み、戦場へと出撃していく参謀。
……そして1100(ヒトヒトマルマル)。
作戦開始から30分後。
私のスマホが怒涛の勢いでブーブーと振動し始めた!
ピコン!
『通信1:調味料エリアにて敵のトラップに遭遇!
「本みりん」と「みりん風調味料」と「みりんタイプ醸造調味料」の3種が
並んでいる!
みりん風の方が100円安いが、本当に「本みりん」で合っているか!?』
私は即座にフリック入力で返信(砲撃)を叩き込む!
『返信:誘導に引っかかるな!
「みりん風」はアルコール分がほぼなく、煮崩れ防止や臭み消しの効果が薄い!
お弁当で作る照り焼きには「本みりん」が絶対条件よ!
100円の差額に惑わされるな!』
『通信2:了解!本みりんを確保!』
間髪入れずに次の通信が着弾!
ピコン!
『通信3:精肉エリアにて第2のトラップ!
「豚ひき肉」を発見したが、赤身率の記載がない!代わりに
「国産豚ひき肉(白っぽい)」と「赤身多め(ちょっと高い)」がある!』
(……来たわね、精肉コーナーの罠……!)
『返信:
白っぽい方は脂身が5割以上占めている可能性が高いわ!
炒めた瞬間に大量のギトギト油が出てお肉が縮むわよ!
安売り肉の白い脂肪(飽和脂肪酸)は、我が軍の肝臓の回収機能を麻痺させ、
血液中に『悪玉(LDL)』を溢れさせる敵の化学兵器よ!
さらに余剰脂肪は中性脂肪へと姿を変え、善玉(HDL)を追い詰める……!
だから「赤身多め」を選択しなさい!』
『通信4:
危なかった……!パックの裏まで見て赤身多めを確保!』
さらに続く通信!
ピコン!
『通信5:豆腐エリアにて「木綿豆腐」が売り切れ!
代わりに「焼き豆腐」と「ツルッと絹ごし」がある!どう迂回すべきか!?』
『返信:隣のプライベートブランド棚を見なさい!
そこに必ず木綿の在庫があるはずよ!』
『通信6:あった!!司令官、凄すぎる……!!』
スーパーの通路の真ん中で、スマホを握りしめながら冷や汗をかく参謀。
商品名だけでなく、用途、成分、クオリティまで見極めて買い物をするという
「主婦(主婦)の頭脳戦」を、彼は身をもって体感していた。
1145(ヒトヒトヨンゴー)。
作戦開始から1時間以上をかけて、汗だくになった参謀が帰還した。
「ただいまアオイ……!なんとか……なんとかトラップを全回避して
全品調達してきたぞ……!」
「お疲れ様、参謀。検品(検品作業)を行うわ」
レジ袋から取り出される品々。
・本みりん(アルコール分14%)
・豚ひき肉(赤身率高め)
・木綿豆腐・食パン(6枚切り)
「……見事よ、参謀。すべての指定スペックを完璧にクリアしているわ!」
「よ、やったーーー!!」
歓喜の声を上げる夫。
だが、レジ袋の底から、指令書にない『謎の物体』が出てきた。
「……ん?これはかしら?」
「あ、それ……お会計の直前に、イチゴがタイムセールで安くなっててさ。
いつも頑張ってるアオイと子どもたちにと思って……」
照れくさそうに頭を掻く夫。
そこにあったのは、真っ赤に熟した美味しそうなイチゴのパックだった。
「……指令外の物資調達は原則禁止だけど…
…今回は特別に許可(特別手当)とするわ」
私はイチゴを受け取り、小さく微笑んだ。
「ありがとう、参謀。……あなたの初陣、大勝利よ!」
ただ頼まれた物を買うだけでなく、家族の喜ぶ顔を想像して買い物を終えた夫。
数々のトラップを乗り越え、参謀としてのレベルは確実に上がっていたのだった――。
(第2章第2話終わり)
お読みいただき、ありがとうございます
スーパーという迷宮で同じように見えるターゲット(食材)を
本部(妻)の指示で確保(カゴに入れる)していく新米参謀・夫の姿
を描いてみました。
補足
赤身のひき肉にこだわる必要性
実は麻婆豆腐には脂身多い方がコクが出て美味しいようです。
しかし本作では、司令官・葵の「健康意識」で赤身必須としました
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