第14話(第2章第1話):参謀の目覚め―『妻の1日』完全可視化作戦
作戦開始時刻、日曜日午前0900(マルキュウマルマル)。
これまでの激戦
(ワンオペ防衛戦、パンデミック、狂乱の遠足キャラ弁ミッション)
を乗り越え、束の間の休日を迎えていた我が『朝倉家司令部』。
リビングのソファに深く腰掛け、コーヒーを片手に優雅な顔をしていたのは、
我が軍の副官(コードネーム:夫・ケンタ)であった。
「ふぅ〜、休日は最高だな! なあアオイ、いつもワンオペで大変そうだし、
今日は俺が1日家事を『交代』してやるよ! アオイは部屋でゆっくり休んでな!」
胸を張り、余裕の笑みを浮かべる夫。
「……交代?
あなた一人で、今日の家事と育児の全行程を遂行するという意味かしら?」
私は静かにマグカップを置き、夫を見つめた。
「おう! 料理に掃除に子どもの相手だろ? 日頃の感謝を込めて、
俺が完璧にこなしてみせるさ!」
「……了解したわ。
では本日0900(マルキュウマルマル)より、あなたを
『1日単独防衛司令官』に任命するわ。武運を祈るわね」
私はそう言い残し、自室へと撤退(避難)した。
……しかし。
作戦開始から、わずか2時間後の1100(ヒトヒトマルマル)。
ガシャン!! ギャァァァァン!!
「あーっ! メイ! ジュースこぼさないで! リク! テレビの前に立たないの!
ちょ、待って、洗濯機が止まってる!? え、これ干してから掃除機!?
昼飯どうするんだっけ!?」
リビングから響き渡る、絶望的な悲鳴と崩壊音!
自室のドアを開けてリビングへ向かうと、そこには惨状が広がっていた。
床には散らかり放題のおもちゃ。 キッチンには朝食の洗い物と、溢れかえった生ゴミ。
洗濯機の中には生乾きの洗濯物が放置され、 要人二人(5歳長男&3歳長女)は
YouTubeの奪い合いで大喧嘩!
そして中心には、髪をボサボサにし、白目を剥いて頭を抱える夫の姿があった。
「壊滅状態ね、元・1日司令官」
「あ……アオイ……! た、助けてくれ……! なんでだ……!?
料理と掃除を順番にやるだけのはずなのに、何ひとつ終わらないし、
子どもたちが3秒に一回トラブルを起こす……!!」
開始わずか2時間で、我が軍の戦線は完全に崩壊していた。
「……当然よ。あなたは家事を『料理・掃除・洗濯』という点(単体タスク)
でしか捉えていなかった。
しかし、我が国の日常は無数のタスクが同時に絡み合う
『密林地帯』なのよ」
私は壁のホワイトボードへ向かい、あらかじめ作成しておいた一枚の大型作戦図
――『妻の1日・タイムスケジュール&名もなき家事タスク表』
をバサッと張り出した!
「な……なんだこれは……!?」
夫が目を丸くする。
そこに書かれていたのは、早朝0500から深夜2300まで、ビッシリと
分刻みで埋め尽くされたスケジュールの数々!
【早朝】
・朝食準備と並行して、前夜の食器片付け ・保育園の連絡帳記入&体温測定
・名もなき家事:補充(トイレットペーパー、シャンプー、麦茶作成)
・名もなき家事:ゴミの分別、紙パック潰し、排水口のネット交換
・要人たちの服の選定(天候と気温を考慮)
【午前〜午後】
・買い物(献立の3日分先回り演算) ・洗濯物をたたむ&裏返し靴下の解除
・子供同士の喧嘩の調停&安全確保(24時間体制)
……以下、深夜まで続く数十項目のリスト!
「掃除や料理なんて、全体の中のほんの数%に過ぎないわ。
あなたが知らなかったのは、この表に並ぶ無数の『名もなき家事』と、
それらを秒刻みで処理する意思決定の連続よ」
ホワイトボードを食い入るように見つめる夫。
その顔から余裕は消え去り、驚愕と、そして深い冷や汗が吹き出していた。
「俺……『手伝ってやる』なんて……なんてバカなことを言ったんだ……。
アオイは毎日、一人でこの地獄のような精密作戦を回していたのか……!」
膝から崩れ落ちそうになる夫。
己の無知と甘さを痛感し、打ちのめされた瞬間であった。
「……分かればいいのよ。一人で回すには、あまりにも過酷な戦場なの」
私は落ち込む夫の前に歩み寄り、静かに手を差し伸べた。
「でもね、副官(夫・ケンタ)、
あなたが『今日代わってあげよう』と思ってくれたその気持ち自体は、嬉しかったわよ」
「アオイ……」
夫はゆっくりと顔を上げ、私の手を見つめた後、力強くその手を握り返した。
「アオイ……俺を『お手伝いさん』じゃなく、正式な兵士として鍛え直してくれ!
俺は今日から『参謀』として、君の隣でこの朝倉家を守る!」
瞳に宿る、本気の覚醒の光。
軽い気持ちの「手伝い」は崩れ去り、ここに真のパートナーシップの第一歩が踏み出された。
「……いいわ。歓迎するわよ、朝倉家共同司令部・新参謀!」
二人の司令官(夫婦)が率いる、新たな朝倉家の内政改革編。
試行錯誤のドタバタ劇が、再び幕を開けたのだった――!
(第2章 第1話 終わり)
お読みいただき、ありがとうございます
・・夫は第1章まで「副官」として表現してましたが、それは妻が哀れんで
授けた 「名ばかり副官」 で、実質「一般人」でした
この章からは夫が自主的に 司令部へ 参謀として 入隊 し
「朝倉家」防衛任務を、司令官・妻とともに果たしていく姿を
描いていきたいと思ってます




