第13話(第1章最終話):作戦完了、そして――『第二次世界大戦』開幕
作戦開始時刻、金曜日2300(フタサンマルマル)。
家族全員を襲ったあの悪夢のインフルエンザ・パンデミックから数日。
徹底的な看護と衛生管理(アルコール乱射)が功を奏し、
我が国の要人二人(5歳&3歳)および副官(夫)は、
無事に全員完全回復(平熱復帰)を果たした。
子どもたちは元気にベッドでスヤスヤと寝息を立て、
副官も自室で明日の仕事に備えて英気を養っている。
静まり返った深夜のキッチン。
間接照明の温かい光の中で、私はマグカップを手に取った。
トクトクと注がれる、淹れたての温かいロイヤルミルクティー。
「……ふぅ……」
一口すすると、甘みと紅茶の香りが五臓六腑にしみわたる。
思い返せば、この数ヶ月間。
毎朝の秒刻みタイムスケジュールに始まり、 夫の「何か手伝おうか?」
という親切心の罠の回避、 突発的な発熱による小児科ネット予約争奪戦、
暗闇に身を潜めるレゴブロック地雷原の撤去、 ママ友公園外交での習い事
マウントのかわし合い、 バナナの皮を巡る3歳児の理不尽な精神汚染攻撃、
夏休みという名の40日間におよぶ暗黒の長期包囲網、
誰にも気づかれない名もなき暗部処理、
そして、家族全員倒れた極限のワンオペ野戦病院――。
数々の過酷なミッション(家事・育児)を、 私はたった一人の司令官(主婦)
として駆け抜けてきたのだ。
「……今回も、我が国の防衛に成功したわ……」
静かな勝利の余韻に浸る。
どんな過酷な局面に陥ろうとも、知恵と工夫、 そして司令官としての意地と
プライドで、我が家の平和を死守し切った。
「……作戦、完了。
今夜くらいは、ゆっくりと自分を労って……」
最高の達成感とともに、マグカップをカウンターへ置いたその時であった。
ふと、冷蔵庫の側面に貼り付けられた 幼稚園からの連絡プリント(作戦通達)が
目に入った。
【重要:明日のおしらせ】
そこに躍り出ていたのは、赤ペンで太々と囲まれた 戦慄のテキスト(文字)――!
『明日:秋の校外学習(遠足)につき、お弁当支給はありません。
各自、保護者による「キャラ弁」の準備をお願いいたします』
――ピキィィィィィン!!
私の脳内で、過去最大級の超ド級警報が鳴り響いた!
「――な、なにぃぃぃぃぃっ!!?!???」
静寂に包まれたキッチンで、声にならない絶叫が炸裂する!
時限爆弾の解体(インフルエンザ対応)が終わった瞬間に、
更なる大型弾道ミサイル(キャラ弁作成)が飛来したのだ!
「キャラ弁……! あの『海苔をピンセットでミリ単位で刻み、
薄焼き卵でキャラクターの顔を構築する』という、 主婦の精神力を極限まで
削り取る特殊造形ミッション……!!」
時刻はすでに2330(フタサンサンマル)。
明日の出撃(遠足準備)のためには、早朝0500起き(マルゴーマルマル起爆)が確定。
今すぐ海苔をチョキチョキとカットし、 ハムとチーズでパーツを作り、
前日仕込み(特殊工作)に入らなければ到底間に合わない!
勝利の余韻? ロイヤルミルクティー? そんな優雅なソロタイムは一瞬にして
灰燼に帰した!
「くっ……! 休む暇など1分たりとも与えないというのね……!」
私は手にしていたマグカップを素早くシンクへ置き、 エプロンの紐を力強く
締め直した!
冷蔵庫のドアを勢いよく開き、 ピンセットとキャラ弁用細工ハサミを両手に構える。
瞳に不屈の闘志(プロの光)を宿らせ、 私は深夜のキッチンで高らかに宣言した!
「ふふっ……作戦完了――と思いきや、 明日は早朝キャラ弁作成ミッションよ!!
第二次世界大戦、開戦――――っ!!!」
(第1章 完結)
お読みいただき、ありがとうございます
一応ここで章を区切り、ここまでを『第1章:ワンオペ孤軍奮闘編』、
としました。
ここからの作品は、第2章「夫婦同盟・内政改革編」とするつもりです
引き続きお楽しみ(共感)いただけたら嬉しいです。




