第10話:暗黒の連休――『夏休み』という長期包囲網
作戦開始時刻、7月下旬某日午前0800(マルハチマルマル)。
太陽が容赦なく照りつける季節。
我が『朝倉家司令部』に、年間最大の長期耐久戦――
『夏休み』という名の暗黒の長期包囲網が襲来した。
「……今日から、40日間の籠城戦(夏休み)が始まるわ」
幼稚園という防衛壁(日中の預かり機能)が完全に撤去され、
要人二人(5歳長男&3歳長女)が24時間体制で我が国に常駐する。
普段なら午前中に確保できていた「一人きりのソロタイム(精神補給)」
は消滅。
朝から晩まで、絶え間なく要人たちの猛攻に晒される過酷な作戦の開幕であった。
この長期戦において、司令官を最も苦しめる課題。
それは『兵糧(昼食)の確保』である!
「ママ~! お腹すいたー! 今日のお昼なにー!?」
時刻はまだ午前10時半。
朝食の片付けが終わってから、わずか1時間半しか経過していない。
(……早い! 兵糧の要求スパンが早すぎるわ……!)
給食という最強の補給線(栄養満点のランチ)が途絶えた今、
朝・昼・晩の3食すべてを自前で製造(調理)しなければならない。
そう、世に言う『昼飯永遠作成地獄』だ!
麺類、チャーハン、うどん、そうめん――。
献立のローテーション(兵糧計画)を脳内で高速演算する。
「……了解したわ。本日の昼食は『冷やしそうめん・流し素麺演習』とする!」
ただのそうめんでは、要人たちの「飽きた」という反乱を招く。
牛乳パックを切って作った簡易スライダーにそうめんを滑らせることで、
昼食を『アトラクション化』して時間を稼ぐ高度な戦術だ!
「わーい! 流しそうめんだー!」
兵糧問題(昼食)をなんとかクリア。 だが、本当の地獄は午後に待っていた。
1300(ヒトサンマルマル)。
連日の猛暑により、屋外での運動(公園出撃)は熱中症リスクが高く不許可。
涼しいクーラーの効いたリビングに閉じ込められた要人たちの
ストレスゲージは限界に達していた。
「ママ、かまってー!」 「ママ、ブロックで作ってー!」
「ママ、折り紙折ってー!」 「ママ! ママ! ママぁぁぁーーー!!」
無限に繰り出される『かまって攻撃』の連射!
「……くっ! 精神の消耗が激しい……!」
一人に対応すれば、もう一人が嫉妬して割り込んでくる。
二人同時に抱っこを要求され、両腕の筋力が悲鳴を上げる。
家事を進めようにも、数秒おきに「ママ見て!」と作業を中断され、
掃除機のコードに足をとられ、
洗濯物をたたんだそばから散らかされる無限ループ!
(……ダメよ、葵。ここで司令官が折れたら、この家は無法地帯と化すわ……!)
精神的に追い詰められた私は、奥の手である『室内アトラクション作戦』
を決行!
リビングのソファやクッション、ダンボールを総動員し、
『大型障害物アスレチック(基地)』を設営したのだ!
「要人たちよ、聞くのだ! これより我が家を突入訓練場(SASコース)へと
変更する! クッションの山を越え、トンネルを潜り抜け、ゴールを目指せ!」
「おーーーっ!!」
目を輝かせ、汗だくになりながら障害物コースを周回し始める要人たち。
運動量を強制的に増大させ、体力を削り取る『疲弊化作戦』である!
1530(ヒトゴーサンマル)。
体力を使い果たした要人二人が、 リビングのラグの上でスヤスヤと
討ち死に(昼寝)した。
嵐のような状況から静けさが戻ってきたリビング。
汗だくの髪を拭いながら、私は壁のカレンダーを見つめた。
カレンダーの「夏休み」のマス目は、まだ38日も残っている。
「……ふふっ。長いわね。……果てしなく長いわ」
冷やし麦茶を一口すすり、私は再び固く拳を握りしめた。
長期包囲網は始まったばかり。
だが、どんな過酷な夏が来ようとも、知恵と工夫で我が家の平和を守り抜く。
司令官の長い夏は、まだまだ続いていくのだった――。
(第1章 第10話 終わり)
お読みいただき、ありがとうございます。
幼稚園の長期休業に伴う「夏休み」という名の長期包囲網と、
毎日頭を悩ませる「3食の昼食準備地獄」、
そして無限に湧き出る「ママかまって攻撃」
との攻防戦を描いてみました。
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