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冥府令嬢の天秤1〜三途の川からお嬢様女子大生へ!冥界エリートの華麗なる事件簿〜  作者: たくみふじ
終 章 新たなる影

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悪魔の匂いと、次なる使命への予感㈠

三途の川の『奪衣婆だつえば』、現世では可憐なお嬢様女子大生!?

 黄金色に輝くイチョウ並木の下、行き交う学生たちの笑い声が飛び交う平和なキャンパス。

 しかし、エバが足を踏み入れたその数メートルの空間だけは、まるで真空地帯のように一切の音が遮断され、底知れぬ冷気が渦巻いていた。


『……愚かな。こちらに近づいて、何をするつもりだ?』


 不採用通知を握りしめ、親友へのどす黒い嫉妬に心を支配されかけている女子学生。その背後にへばりつき、彼女の負の感情を啜っている悪魔の思念体が、ノイズ混じりのテレパシーでエバを嘲笑った。


『お前が冥界の執行官であろうと、今はただの人間の小娘の「器」に入っているに過ぎない。天界の不可侵条約がある以上、我々のような高位の思念体を直接どうこうすることなど不可能だ。……お前はただ、この哀れな女が嫉妬に狂い、人間関係を破壊し、やがて自滅していく様を、指をくわえて見ていることしかできないのだよ』


 悪魔の言う通り、彼ら思念体は物理的な実体を持たない。

 刃物で切り裂くことも、銃弾で撃ち抜くこともできない、純粋な『悪意のエネルギー体』だ。現世の法はもちろん、物理法則すら通用しない彼らは、これまで長きにわたり、人間の欲望や嫉妬の隙間に隠れ潜んでは、安全な場所から悲劇のパズルを組み上げてきた。

 菱倉家の惨劇の背後でも、こうして彼らは(わら)っていたに違いないのだ。


「……高位の思念体、ですって?」


 エバの桜色の唇から、氷のように冷たく、そして絶対的な威圧感を伴った声が漏れた。

 彼女は歩みを止めない。コツ、コツ、とヒールの音を響かせ、女子学生との距離を確実に詰めていく。


「人間の弱い心に寄生しなければ存在すら維持できない、ただの浅ましい害虫のくせに。……あなたたちは、この世界の美しさも、人間の魂の温かさも、何一つ理解していないのね」


『黙れ、小娘が! 人間など、我々の極上のディナーを生産する牧場の家畜に過ぎん!』


 悪魔の赤い無数の瞳が、怒りと嘲りで凶悪に歪む。


『この女の魂はすでに私のものだ! 今夜、親友を歩道橋から突き落とすための最高の「殺意」を醸造してやっているところだ。邪魔をするなら、お前のその可憐な器の精神から先に喰い破ってやろうか!』


 悪魔の放つ腐臭が、一気に濃度を増した。

 周囲の空気が重く澱み、女子学生の顔がさらに土気色に染まっていく。彼女の瞳からは光が消え、まさに親友への殺意が臨界点に達しようとしていた。


「――おやめなさい。ここは、あなたのような害虫の食事処ではありませんわ」


 エバは、女子学生の背後、悪魔が寄生しているまさにそのゼロ距離へと到達した。

 そして、周囲の学生たちからは「気分が悪くなった友人を心配して声をかけている」ようにしか見えない、極めて自然な動作で、女子学生の肩にそっと自らの白く細い手を置いた。


『クハハハ! 無駄だと言っているだろう! 物理的な接触など、我々思念体には……ッ!?』


 悪魔の嘲笑が、突如として、信じられないほどの驚愕と恐怖の絶叫へと反転した。


「ギ、ギャァァァァァァッ!?」


 エバが女子学生の肩に触れた瞬間。

 エバの指先から、人間には視認できない極小サイズの『紫色の瘴気』が爆発的に展開されたのだ。

 それは、周囲の空間には一切影響を与えず、女子学生の魂の表面にこびりついている悪魔の思念体だけを、ピンポイントで包み込む絶対的な結界。


『な、なんだこれは!? 力が、私の存在が……引き剥がされる……ッ!?』


「ええ、引き剥がしますわ。あなたが存在の拠り所にしている、その『悪意の皮』をね」


 エバの瞳が、絶対零度の冷徹な光を放つ。

 冥界の絶対的支配者である閻魔大王が、なぜエバに『悪魔狩人(デーモンマタギ)』という新たな使命を与えたのか。

 それは彼女が、対象の魂にこびりついた罪や虚飾、そして異物という名の「衣」を、強制的に引き剥がし、無力化する『奪衣婆』の権能を持っていたからだ。

 実体を持たない悪魔であろうと、人間の魂に「寄生(着込み)」している以上、彼女の剥奪(はくだつ)の対象となる。


「……脱ぎなさい、寄生虫」


 エバが静かに、しかし絶対的な命令を下した。

 直後。紫色の瘴気(しょうき)が鋭い刃のように回転し、悪魔の思念体を女子学生の魂から、バリバリと音を立てて暴力的に引き剥がし始めた。


『ギィアアアアアッ! やめろ、やめろォォォッ!! 私は、高位の……!』


「高位であろうと低位であろうと、関係ありませんわ。私の前では、すべての罪人は丸裸にされる運命にありますのよ」


 エバが指先を軽くスナップさせると、悪魔の思念体は完全に女子学生の魂から切断され、空中に引きずり出された。

 人間の魂という隠れ蓑を失った悪魔は、もはや醜く(うごめ)くただの黒いヘドロの塊でしかなかった。エバの(まと)う冥界の冷気に(さら)され、その存在を構成するエネルギーが、ジュージューと音を立てて蒸発していく。


『ば、化け物め……! お前は、ただの執行官ではない……! おのれ、我々同胞が、必ずお前を……!』


「お待ちしておりますわ。この愛おしい人間界を汚そうとする者には、私が直々に地獄への片道切符を発行して差し上げますから」

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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