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冥府令嬢の天秤1〜三途の川からお嬢様女子大生へ!冥界エリートの華麗なる事件簿〜  作者: たくみふじ
第五章 三途の川か、それとも

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閻魔大王からの「第三の選択肢」㈢

三途の川の『奪衣婆だつえば』、現世では可憐なお嬢様女子大生!?

 裁定の間に、重苦しい沈黙が落ちた。

 エバは、静かに目を閉じた。

 魂の完全消滅。永遠の闘争。それは、エリート官僚として安泰なシステムの中で生きてきた彼女にとって、恐怖以外の何物でもないはずだった。

 しかし、目を閉じた彼女の脳裏に浮かぶのは、冥界の暗く冷たい静寂ではない。

 夕子の、太陽のように弾ける笑顔と、恋バナに花を咲かせたカフェテリアの空気。

 遊園地のベンチで、顔を真っ赤にしながらも「お前の居場所は俺が作る」と誓ってくれた、真喜の不器用で真っ直ぐな温もり。

 そして、危険な香りを漂わせながら「君のすべてを私に委ねなさい」と囁いた、油江颯の知的な独占欲と、ほろ苦いコーヒーの匂い。

 美味しい食べ物、面倒だけれど心地よい入浴、誰かを思いやり、誰かに想われるという、痛いほどの心の高鳴り。


(私は……あの愛おしい世界で、彼らと生きていきたい。彼らが生きるあの光の世界を、悪魔なんかに絶対に汚させはしない)


 エバは目を開いた。

 その瞳には、もはや冷酷な奪衣婆としての無機質な光も、運命に怯える令嬢の弱さもなかった。あるのは、自らの意志で運命を切り開こうとする、一人の強い「女性」としての、澄み切った決意の輝きだった。


「大王様。……その役目、謹んでお受けいたしますわ」


 エバは深紅の光の球体に向かって、真っ直ぐに手を伸ばした。


「あの世界には、私が心から愛し、守りたいと願う人たちがいます。悪魔が彼らの平穏な日常を脅かすというのなら、元・奪衣婆の名にかけて、その醜い思念の皮を根こそぎ剥ぎ取ってご覧に入れますわ。……たとえこの魂が砕け散ろうとも、私は、彼らと共に在る道を選びます」


『……ふっ、はははははっ!』


 閻魔大王が、玉座から立ち上がり、地鳴りのような豪快な笑い声を上げた。


『よく言った! それでこそ、我が誇り高き異端の執行官だ! その人間の愛というバグを武器に、現世に巣くう悪魔どもを片っ端から地獄へ送り返してこい!』


 エバの白い指先が、深紅の球体に触れた。

 その瞬間、球体が爆発的な光を放ち、エバの魂を温かく、そして力強く包み込んだ。


「必ず、大王様の期待に応えてみせます!」


 エバの魂が深紅の光の粒子に分解され、冥界の重力を振り切って、猛烈な速度で上空へと吸い込まれていく。

 足元の黒い砂地も、永遠に続く三途の川の冷たい水音も、急速に遠ざかり、フェードアウトしていく。

 代わりに、彼女の感覚を包み込み始めたのは、懐かしい潮風の匂いと、冷たい夜気。そして、自分をこの世界へ引き戻そうとする、血を吐くような切実な声だった。


『新子ォォォッ!! 戻ってこい、新子ォッ!』


『エバ! 私を置いていくことなど、絶対に許さないぞ!』


(待っていて、真喜さん、教授。……私、帰るわ)


 エバは光の奔流の中で、現世に向けて大きく両手を広げた。


(あなたたちのいる、あの痛いくらいに愛おしい世界へ……!)


 冥界の絶対的支配者から与えられた、第三の選択肢。

 それは、ただの執行官だった彼女が、愛する者たちを守る「悪魔狩人(デーモンマタギ)」として、人間界で新たな生を勝ち取った瞬間であった。

 光は極限まで眩さを増し、エバの意識は再び、温かな肉体の鼓動の中へと引き寄せられていくのであった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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