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冥府令嬢の天秤1〜三途の川からお嬢様女子大生へ!冥界エリートの華麗なる事件簿〜  作者: たくみふじ
第四章 暴かれる罪と罰

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元・奪衣婆の華麗なる異能アクション㈢

三途の川の『奪衣婆だつえば』、現世では可憐なお嬢様女子大生!?

 エバの瞳を通して、香々美は自らが、宝石やドレスで着飾った美しい令嬢などではなく、どす黒いヘドロにまみれた、醜く卑小(ひしょう)な丸裸の怪物であることを強制的に直視させられていた。


「いやあああッ! 見ないで! 私の、私の綺麗な服を返して! 私は特別なの! 私は誰よりも美しくて、誰よりも……!」


 香々美は狂乱して自らの身体を掻きむしり、存在しない皮を必死に手繰り寄せようとするが、エバの冷徹な瘴気はそれを許さず、彼女の罪の真実をこれでもかと白日の下に(あば)け出し続けた。


「これが、あなたの真の姿ですわ」


 エバは香々美の手首から静かに手を離した。

 同時に紫色の瘴気(しょうき)がスッと霧散する。


「あ……ぁ……あぁぁ……」


 支えを失った香々美は、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

 彼女の目からは大粒の涙と鼻水がとめどなく溢れ、床に突いた両手は小刻みに震え続けている。絶対的な自信と傲慢さで塗り固められていた彼女の自我は、エバの『奪衣』の権能によって完全に粉砕され、己の醜さと罪の重さに耐えきれず、ただの怯える子供のように泣きじゃくることしかできなくなっていた。


「……見事な心理的去勢だ。いや、魂の解剖と言うべきか」


 背後でその一部始終を見届けていた油江颯が、深く、感嘆の息を吐き出した。


「対象の精神構造を物理的な衝撃として崩壊させ、嘘と虚飾を根底から無効化する。人間の心理学では到達不可能な、究極の自白強要術……。エバ、君という存在は、知れば知るほど私の常識を心地よく破壊してくれる」


 油江の瞳には、恐ろしい異能の力を目の当たりにした恐怖など微塵もない。あるのは、解き明かすべき極上の謎を見つけた犯罪心理学者の、狂気じみた歓喜と執着だけだった。

 一方、真喜は腕の傷から流れる血もそのままに、ふらつく足取りでエバの元へと駆け寄った。


「新子……! もういい、もう十分だ……!」


 真喜は、冥界の瘴気を纏い、人間離れした冷たさを漂わせているエバを、何の躊躇(ためら)いもなくその広い胸へと強く抱き寄せた。


「……真喜さん」


 エバの瞳孔がわずかに揺れた。

 先ほどまで冷徹なエリート執行官として香々美の魂を裁いていたはずの彼女の心が、真喜の温かい体温と、力強い腕の感触に包まれた瞬間、強烈なエラーを起こして人間としての脆さを露呈し始める。


「よく頑張ったな、新子。一人でこんな恐ろしい奴らと戦って……もう大丈夫だ。俺がついてる。もう誰にも、お前を傷つけさせない」


 真喜は、エバが使った人間離れした異能の力について、何も問いただそうとはしなかった。彼にとって重要なのは、愛する少女が無事であること、ただそれだけなのだ。その盲目的で過保護な愛情が、エバの冷え切った魂の奥深くまで浸透し、彼女の胸を締め付ける。


(私は、彼らの罪の衣を剥ぎ取り、裁くためにここへ来た。……でも、私の使命が終われば、私は……)


 エバは真喜の背中にそっと腕を回し、そのシャツをきつく握りしめた。

 冥界へ帰還しなければならないという絶対の掟と、この温かい腕の中にずっと留まりたいという人間の「恋」の感情が、彼女を八つ裂きにしようとしていた。真喜の傷口から漂う微かな血の匂いが、ひどく愛おしく、生々しく感じられる。

 油江が、冷徹にその光景を見つめながら、静かに口を開いた。


「さて、感動のフィナーレの途中だが……お迎えが来たようだぞ」


 遠くから聞こえていたけたたましいサイレンの音が、ついに屋敷の真下で停止した。

 多数の重いブーツの足音が、階段を駆け上がり、廊下をこちらへ向かって一直線に迫ってくる。

 特捜部の捜査員と、応援要請を受けた警察の突入部隊だ。


「さあ、舞台の幕引きだ。……犬飼の引き渡しと、香々美の自供の確保。ここから先は、光の世界の法と、私の心理学の出番だ」


 油江は床に転がった銃を足で遠くへ蹴りやると、ドアの方へと視線を向けた。


「エバ。君の異能アクションは完璧だった。あとは私に任せて、君は『被害者である可憐な令嬢』の顔に戻るんだ」


 その言葉を合図にするかのように、私室の扉が外から荒々しく蹴り開けられた。


「そこまでだ! 動くな!」


 黒いタクティカルベストに身を包んだ捜査員たちが、銃と盾を構えて一斉に部屋へと雪崩れ込んでくる。

 エバは真喜の腕の中で、すっと全身の力を抜いた。

 冥界の瘴気は瞬時に霧散し、その瞳からは絶対零度の光が完全に消え去っている。代わりに浮かび上がったのは、凄惨な身内同士の殺し合いに巻き込まれ、恐怖に震えながらも愛する青年の胸に(すが)り付く、無力で可憐な令嬢「菱倉新子」の完璧な姿だった。

 香々美は床で虚ろな目をしたままうずくまり、犬飼は部屋の隅で完全に意識を失って白目を剥いている。

 部屋に突入した捜査員たちは、その異様な光景に一瞬だけ戸惑いを見せたものの、油江が静かに身分証を提示し、事態の収拾に動き出した。

 元・奪衣婆による、人知を超えた華麗なる異能アクションの幕が下りた。

 強欲と嫉妬にまみれ、新子を死の淵へと追いやった犯人たちは、今や完全にその「罪の衣」を剥ぎ取られ、無力化された。

 物語は人間の法が彼らを裁く、すべての真実が暴かれる「裁きの時間」へと、静かに移行していくのであった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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