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冥府令嬢の天秤1〜三途の川からお嬢様女子大生へ!冥界エリートの華麗なる事件簿〜  作者: たくみふじ
第四章 暴かれる罪と罰

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元・奪衣婆の華麗なる異能アクション㈡

三途の川の『奪衣婆だつえば』、現世では可憐なお嬢様女子大生!?

 エバは犬飼を一瞥(いちべつ)もせず、氷のように冷たい視線を香々美へと向けながら、ゆっくりと、一歩、また一歩と間合いを詰めていく。


「屋上から私を突き落とすよう命じた時の、あの冷酷な決断力はどうしたのです? 自らの手を汚す覚悟もない人間に、その銃の引き金は重すぎますわよ、香々美お姉様」


「うるさい、うるさい、うるさぁぁぁいッ!」


 香々美の瞳孔が開き、恐怖と狂乱の極地で、ついに銃の引き金が引かれた。


 パーンッ! 


 という鼓膜を(つんざ)く乾いた破裂音が、密室の私室に反響し、硝煙の匂いが一気に立ち込める。


「新子ォッ!!」


 真喜の悲痛な絶叫が響き渡った。

 しかし――エバの身体には、一滴の血も流れていなかった。

 そして、彼女は避ける素振りすら見せていなかった。


「……あ、あれ……?」


 香々美が信じられないものを見るように、自らの手元の銃を見下ろした。

 銃口からは確かに硝煙が上がっている。弾丸は間違いなく発射された。だが、エバの顔の横、ほんの数センチの空間に、鉛の弾丸がまるで「見えないゼリーの壁」にぶつかったかのように、空中でピタリと静止していたのだ。

 エバの周囲を覆う冥界の紫色の瘴気が、極度の高密度に圧縮され、絶対的な防壁を形成していた。弾丸が持つ致死の運動エネルギーは、元・奪衣婆の領域に侵入した瞬間、その威力を完全に「剥ぎ取られ」、ただの無害な鉛の(かたまり)へと還らされていたのである。

 エバは空中で静止した弾丸を、親指と人差し指で摘み取ると、香々美の足元へとチャリン、と音を立てて落とした。


「人間の浅知恵で作られた武器など、私には通用しませんわ」


 エバの冷徹な声が、凍りついた空気をさらに冷やす。


「さあ、次はあなたの番ですわ、香々美お姉様。あなたが身にまとっているその見苦しい『虚飾』を、私が直々に引き裂いて差し上げます」


 絶望的なまでの実力差と、人間を超越した異能の力を突きつけられ、香々美は膝から崩れ落ちた。

 物理的な暴力が一切通じない絶対的な裁定者を前に、彼女の魂への強制的な「剥奪(はくだつ)」が、今まさに執行されようとしていた。


 チャリン、と。エバの足元に転がった鉛の弾丸が立てた、ひどく無機質で小さな金属音。

 それは、香々美の精神における最後の一線を完全に断ち切る、死の宣告にも等しい響きだった。


「あ……あああ……化け物! 悪魔ァッ!!」


 香々美は絶叫しながら、まだ弾が残っているはずの小型拳銃をエバの顔面めがけて力任せに投げつけた。しかし、それすらもエバの周囲に展開された紫色の防壁に触れた瞬間、運動エネルギーを完全に「剥奪」され、ふわりと落下して高級絨毯の上に力なく転がった。

 もはや人間界の物理法則が一切通用しない。自らの絶対的な優位性が根底から覆され、手も足も出ないという絶対的恐怖に、香々美は這いずるようにして後ずさった。

 ドレッサーに背中からぶつかり、その上に並んでいた高級な香水の小瓶や、クリスタル製の宝石箱を手当たり次第に掴んでは、狂ったようにエバへと投げつける。


「来るな! 私に近づくな! 私は菱倉の正当な後継者よ! お前みたいな不気味な女に、私の人生を奪われてたまるもんですか!」


 香水瓶が宙を舞い、中身の甘い液体がぶちまけられ、高価な宝石が散弾のように降り注ぐ。

 だが、エバは歩みを一切止めなかった。飛来するすべての物体は、エバの身体から数センチの距離でピタリと空中で静止し、次々と床へ音を立てて無害なゴミのように落ちていく。エバの(まと)う冷たい瘴気は、香々美の哀れな足掻(あが)きをすべて無に帰す、絶対的な拒絶の領域を形成していた。


「人生を奪う? 勘違いなさらないで、香々美お姉様」


 エバの氷のように冷たく、そしてどこまでも透き通った声が、散乱するガラスの破片を踏み砕く音とともに部屋に響く。


「私は奪うのではありません。あなたが何十年もかけて塗り固めてきた、その見苦しい『虚飾』と『嫉妬』の皮を、あるべき姿に剥ぎ取って差し上げるだけです。……旧理科棟の屋上から私を突き落とさせた、その薄汚い魂の真実の姿をね」


 逃げ場を失った香々美の背中が、ついに冷たい壁へとぶつかった。

 彼女はパニックのあまり、床に落ちていた砕けたクリスタルグラスの大きく鋭い破片を両手で握り締め、それを短剣のように構えてエバへと突進した。


「死ねェェェッ! 新子ォォォッ!!」


 なりふり構わぬ、令嬢としての体裁もすべてかなぐり捨てた醜悪な特攻。

 しかし、元・奪衣婆であるエバの眼には、その動きはひどく滑稽で、スローモーションのように映っていた。

 エバは香々美の突き出してきたガラスの破片を避けることすらしない。ただ静かに右手を持ち上げ、香々美の凶器を握る両手首を、まるで羽虫でも捕まえるかのような優雅な動作でふわりと包み込んだ。


「……え?」


 香々美の動きが、完全に停止した。

 エバの白く冷たい両手が触れた瞬間、香々美の全身の筋肉から一切の力が抜け落ちたのだ。

 それは物理的な力による制圧ではない。魂の根幹に干渉し、対象の「(あらが)う意志」と「自己防衛本能」そのものを強制的に剥ぎ取る、冥界のエリート執行官の真の力。


「さあ、脱ぎなさい」


 エバが、静かに、しかし絶対的な命令を下した。

 直後、エバの両手から凄まじい紫色の瘴気が爆発的に立ち上り、香々美の全身を竜巻のように包み込んだ。


「ア、アアアアアアッ!?」


 香々美の口から、声にならない絶叫が漏れる。

 実際に彼女の衣服が破けているわけではない。しかし、香々美の精神世界において、彼女は今、自らが縋り付いてきたあらゆるものを暴力的に引き剥がされていた。

『菱倉家の美しき令嬢』というプライド。

『自分は誰よりも優れている』という傲慢さ。

『私は直接手を下していない』という責任転嫁の嘘。

 そして、『新子さえいなければ』という醜く膨れ上がった嫉妬の皮。

 それらすべての精神的装甲が、メリメリと音を立てて彼女の魂から剥ぎ取られていく。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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