強欲と嫉妬が導いた殺意のパズル㈢
三途の川の『奪衣婆』、現世では可憐なお嬢様女子大生!?
「……それが、あなたの魂にこびりついた『罪の真実』ですね」
エバは微塵も感情を動かすことなく、ただ冷然と香々美を見下ろした。
彼女の目には、香々美の周囲にまとわりつく醜い嫉妬のオーラが、腐臭を放つ泥の衣のように視覚化されて見えていた。冥界の裁定者として、このどうしようもなく浅ましい人間の業を白日の下に引きずり出すことこそが、彼女の使命。
「ええ、そうよ! 私がやったの! でも、だからどうしたって言うの!?」
完全に開き直った香々美が、狂気を含んだ笑いを上げる。
「証拠があるなら警察に突き出せばいいわ! でもね、実行犯はあの犬飼よ! 私はただ『相談に乗ってあげた』だけ。優秀な弁護士を雇えば、教唆だなんていくらでも誤魔化せるわ!」
己の保身のためなら、利用した人間をどこまでも冷酷に切り捨てる。
その言葉が部屋に響き渡った、まさにその時だった。
――ギィッ……。
エバの背後、部屋の奥にある巨大なウォークインクローゼットの扉が、不気味な軋み音を立てて内側から開いたのだ。
「……え?」
真喜が息を呑み、油江が瞬時に警戒の視線を向けた。
そこから這い出してきたのは、何日も風呂に入っていないような異臭を放つ、頬のこけた男だった。虚ろに落ちくぼんだ目には血走った狂気が宿り、その右の手には、鋭く光るサバイバルナイフが固く握りしめられている。
「……い、犬飼!?」
香々美が悲鳴を上げ、後ずさった。
旧理科棟の屋上から新子を突き落とした実行犯であり、香々美に言葉巧みに操られていたストーカー。警察の捜査網から逃れるため、彼はずっとこの本邸の、香々美の私室の奥底に匿われていたのだ。
「警察が動くまで、ここで隠してあげるって……ほとぼりが冷めたら、二人で海外に逃げようって、香々美さんが言ったから……。俺、ずっと暗いクローゼットの中で、息を殺して待ってたのに……」
犬飼の足取りはフラフラと覚束なかったが、その視線はもはや本来の標的であるエバ(新子)には向いていなかった。彼が聞いたのは、たった今、自分がただの「捨て駒」として利用され、弁護士を使って切り捨てようとしていた香々美の無慈悲な自白だった。
「俺のこと、ただの馬鹿な道具だって……笑ってたのか……?」
「ち、違うわ犬飼くん! 誤解よ! あれはあいつらを騙して追い払うために、わざと言ったのよ!」
「嘘だァァァッ!!」
香々美の苦し紛れの弁明は、完全に崩壊した犬飼の精神には届かなかった。
裏切られた絶望と、歪んだ執着が反転し、純度百パーセントの殺意へと変貌する。犬飼の喉の奥から、獣のような咆哮が迸った。
「俺を騙したな! 俺の純粋な愛を弄んだなァァッ!!」
犬飼はナイフを振りかぶり、香々美を刺し殺そうと猛然と突進の構えを見せた。
「きゃああああッ!」
パニックに陥った香々美は、這いずるようにして背後の開け放たれたトランクケースへと手を伸ばした。
彼女がその中から乱暴に引きずり出したのは、鈍い銀色の光を放つ小型の自動拳銃だった。一族の裏の仕事を取り仕切っていた勉叔父から、いざという時の護身用として密かに譲り受けていた非合法の凶器だ。
「来るな! 来たら撃つわよ! あんたみたいな気味が悪いストーカー、最初から死ぬほど反吐が出そうだったのよ!!」
銃口が、震える手で犬飼へと向けられる。
しかし、同時にその狂乱の矛先は、このすべての元凶であるエバへとスライドした。
「お前もだ、新子ォッ! お前さえ、お前さえ死んでいれば、こんなことにはならなかったのに!!」
ナイフを構え、痛覚を失ったかのように涎を垂らす狂気のストーカー。
銃の引き金に指をかけ、ヒステリックに絶叫する強欲な従姉。
密室に、殺意と凶器が完全に解き放たれた。
「新子、危ないッ! 下がれ!」
真喜が叫び、自らの身を挺してエバを庇おうと前に出る。
油江が舌打ちをし、瞬時に最悪の事態を想定して制圧の体勢に入ろうと重心を低くした。
強欲と嫉妬が導いた殺意のパズルは、今、血で血を洗う最悪の物理的な暴力へと変貌を遂げた。
だが、その狂乱の中心に立つエバだけは、銃口を向けられてなお、一片の恐怖も見せずに、ただ静かに、そして優雅に微笑んでいた。
人間の浅知恵で作られた凶器など、冥界の執行官には届かない。
殺意の最終段階を迎えたこの部屋で、元・奪衣婆の真の力が、ついに華麗なる解放の時を迎えようとしていた。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




