第3話:沈殿する可能性
水面が揺れる。
無数の“クロエ”が、
こちらを見ていた。
泣いている。
笑っている。
壊れている。
全部、
違う未来。
クロエは息を呑む。
「……なんなんだよ、これ」
『助けて』
『寒い』
『怖い』
声が重なる。
頭の奥へ、
直接流れ込んでくる。
クロエが耳を押さえる。
「うるせぇ……!」
その瞬間。
水面から、
一人の“クロエ”が現れた。
黒い羽。
紫と青の瞳。
だが。
全身がノイズに侵食されている。
“クロエ”は、
静かにこちらを見た。
『――やっと来た』
クロエの動きが止まる。
まただ。
あの時の、
“観測されなかったクロエ”。
セレナが警戒する。
「接近するな」
白銀の光が走る。
だが。
“クロエ”は避けない。
光が身体を貫く。
しかし。
崩れた輪郭が、
また再生する。
エルの瞳が揺れる。
「深層記録体……」
「通常攻撃による消去、
不可能」
クロエ。
「もうちょい簡単に言え!」
ノクスが肩を竦めた。
「つまり、
ここじゃ“消えた存在”は死なねぇ」
空気が冷える。
“クロエ”が、
ゆっくり近づいてくる。
水面に波紋が広がる。
その度に、
違う未来が映った。
血だらけのクロエ。
崩壊した都市。
誰もいない世界。
そして。
ノクティスが、
一人で立っている景色。
クロエの瞳が揺れる。
「……なんだよ、それ」
“クロエ”が、
静かに口を開く。
『全部、
お前が選ばなかった未来』
世界が止まる。
『でも』
『選ばれなかっただけで、
消えたわけじゃない』
その瞬間。
巨大な“目”が、
さらに開く。
轟音。
深層全体へ、
ノイズが走る。
水面が裂けた。
下。
深い青の底。
そこに、
巨大な影がいる。
セレナが息を呑む。
「……まさか」
エルの声が震える。
「深層主……?」
クロエ。
「今度はなんだよ!?」
すると。
深い底から。
ゆっくりと、
“何か”が浮上を始めた。
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