第三章 完:観測されすぎた世界
静寂。
誰も、すぐには動けなかった。
未観測領域の奥。
無数の“目”が、こちらを見ている。
数えきれない。
なのに。
全部、意思を持っていた。
クロエが顔をしかめる。
「……気持ち悪ぃ」
“クロエ”は、静かにその光景を見上げる。
黒い瞳。
感情の薄い声。
「観測は増え続けた」
「記録は蓄積した」
「世界は、可能性を持ちすぎた」
セレナが低く問う。
「何を言っている」
“クロエ”。
「選択肢が増えすぎれば、世界は固定できなくなる」
エルのノイズが揺れる。
「……理論整合性、一致」
クロエ。
「お前まで納得すんな!」
ノクスが低く笑う。
「いや、だいたい察してた」
黒い羽を揺らしながら、空を見る。
「観測しすぎたんだよ」
「世界の全部を、理解しようとした」
ノクティスが静かに続ける。
「その結果」
「世界は、“確定”できなくなった」
沈黙。
クロエが眉をひそめる。
「……は?」
“クロエ”が、ゆっくりこちらを見る。
「お前達の世界は、もう揺らぎ続けている」
「だから、外側に見つかった」
その瞬間。
無数の“目”が、一斉に開く。
轟音。
未観測領域全体に、巨大なノイズが走る。
クロエ達の身体が揺れる。
セレナ。
「……っ!」
エルの輪郭が、崩れかける。
ノクスが舌打ちした。
「来やがったぞ!」
空間の奥。
“何か”が動く。
認識できない。
だが。
近づいている。
確実に。
“クロエ”が呟く。
「もう時間がない」
クロエが睨む。
「だからお前誰なんだよ!!」
沈黙。
そして。
“クロエ”が、ほんの少しだけ笑う。
寂しそうに。
「――観測されなかったお前だ」
空気が止まる。
クロエ。
「……は?」
次の瞬間。
未観測領域の奥で。
巨大な“手”が、ゆっくり現れた。
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