第37話:外側からの接触
静寂。
誰も、動けなかった。
空に走る、巨大な亀裂。
その向こう側。
“何か”がいる。
だが。
見えない。
認識できない。
存在しているのに、輪郭を持たない。
クロエが、息を呑む。
「……なんだよ、あれ」
返事はない。
ノクスですら、笑わない。
黒い羽を僅かに広げ、空を睨んでいる。
セレナが呟く。
「観測できない……?」
エルの輪郭に、ノイズが走る。
「解析不能」
「既存記録、該当無し」
その瞬間。
空の亀裂が、わずかに開く。
全員の身体が、強制的に硬直する。
圧力。
いや。
“視線”。
見られている。
世界そのものが。
クロエが歯を食いしばる。
「……っ」
立っているだけで、身体が軋む。
存在を、上書きされそうになる。
その時。
ノクティスが、前へ出た。
白い衣装。
銀髪が、風に揺れる。
その瞳だけが、異様なほど静かだった。
クロエ。
「ノクティス?」
ノクティスは、空を見上げたまま呟く。
「……まだ早い」
次の瞬間。
ノクティスの周囲に、白いノイズが展開する。
空間固定。
だが、レグルスのものとは違う。
もっと古い。
もっと深い。
世界そのものへ、干渉する力。
エルが揺れる。
「同系統……?」
ノクティス。
「黙っていろ」
空の亀裂が、さらに開く。
“指”が動く。
それだけで。
街全体に、ヒビが走った。
ビル。
道路。
空間。
全てが、軋み始める。
クロエが叫ぶ。
「ふざけんな……!」
羽を広げる。
黒いノイズが、空へ噴き上がる。
だが。
届かない。
圧倒的すぎる。
まるで、世界の外から指で触れられているみたいに。
ノクスが、低く呟く。
「……遊ばれてる」
その言葉に。
空気が、凍った。
クロエ。
「は……?」
ノクスは、空を睨んだまま続ける。
「アレ、本気で触ってねぇ」
「“確認”してるだけだ」
沈黙。
理解した瞬間。
全員の背筋が、冷える。
この世界は。
まだ。
“掴まれてすらいない”。
その時。
ノクティスの瞳が、僅かに揺れた。
初めて。
本当に、僅かに。
「……来るぞ」
瞬間。
亀裂の奥で、“目”が開いた。
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