第36話:未観測領域
砕ける。
白い世界が。
観測空間が。
音を立てて、崩壊していく。
クロエは、エルの腕を掴む。
落下。
上下も分からない。
世界の境界が、何層も砕けていく。
ノイズ。
光。
無数の記録。
選ばれなかった未来が、視界の端を流れていく。
だが。
クロエは、もう見ない。
前だけを見る。
エルの手を、強く掴みながら。
その瞬間。
巨大な瞳が、最後の観測を行う。
「未確認因子――」
「排除開始」
空間圧力。
凄まじい負荷が、二人へ叩きつけられる。
クロエの羽が砕ける。
血。
視界が赤く染まる。
それでも。
離さない。
エルが、ノイズ混じりに呟く。
「……なぜ」
クロエ。
「しつけぇな!」
落下しながら笑う。
「仲間だからだろ!」
その瞬間。
エルの瞳が、大きく揺れる。
観測側のノイズ。
それが、初めて明確に乱れる。
巨大な瞳。
「感情接続――異常」
「観測誤差、拡大」
ノクティスが、現実側で空を見上げる。
崩れた空。
裂ける境界。
その奥で。
クロエとエルが、落ちている。
ノクスが叫ぶ。
「来るぞ!!」
次の瞬間。
空が破裂する。
黒と銀の光が、境界を突き破る。
轟音。
クロエ達が、現実空間へ叩き戻される。
地面が砕ける。
煙。
衝撃波。
セレナが翼で防ぐ。
風が吹き荒れる。
やがて。
煙の中から、影が見える。
クロエ。
ボロボロだ。
羽も崩れている。
それでも。
倒れていない。
その隣。
エルが、静かに立っている。
ノイズ混じりの輪郭。
だが。
瞳だけは違った。
以前の、無機質な色ではない。
クロエが息を吐く。
「……戻ったか?」
長い沈黙。
エルが、ゆっくりクロエを見る。
そして。
ほんの少しだけ。
笑った。
「未確定だ」
ノクスが吹き出す。
「なんだそれ」
セレナも、小さく息を吐く。
だが。
次の瞬間。
空全体に、巨大なヒビが走る。
全員の動きが止まる。
空の奥。
“何か”がいる。
巨大な瞳より、さらに奥。
もっと深い場所。
ノクティスの瞳が、初めて大きく揺れる。
「……まさか」
その瞬間。
世界の外側から。
“指”が、境界へ触れた。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!




