第34話:選ばれなかった記録
白い世界。
境界がない。
上下も。
距離も。
存在しない。
ただ。
無数の“記録”だけが漂っている。
クロエが息を乱す。
頭痛。
視界ノイズ。
感情まで、引き裂かれそうになる。
周囲に映像が流れる。
崩壊した街。
血に染まる空。
独りで立つ影。
動かないエル。
倒れたセレナ。
黒い羽。
だが。
誰の顔も、最後までは見えない。
クロエが歯を食いしばる。
「……見せてんじゃねぇよ」
声が響く。
どこからでもなく。
世界そのものから。
「選択は、収束する」
「可能性は、記録される」
「破滅率、高」
巨大な瞳。
白い空間の奥で、静かに瞬いている。
クロエが睨む。
「だから何だよ」
その瞬間。
映像が変わる。
静かな世界。
誰も傷つかない。
争いもない。
痛みもない。
止まったみたいな世界。
レグルスの固定世界に似ていた。
声が落ちる。
「停止すれば、失わない」
「選択しなければ、壊れない」
静かな誘惑。
クロエが、ゆっくり拳を握る。
脳裏に浮かぶ。
笑うノクス。
呆れたセレナ。
不器用なエル。
そして。
傷だらけでも、進み続けた時間。
クロエが小さく笑う。
「……バーカ」
白い世界に、微かなヒビが走る。
クロエが顔を上げる。
「止まってるだけなら」
黒い羽が、静かに広がる。
「生きてるって言わねぇんだよ」
その瞬間。
巨大な瞳が、初めて揺らいだ。
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