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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 ~終わりを選び、未来を奪い返せ~  作者:
第三章:観測外領域 ― 選択の代償

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第27話:境界消失

空が、砕け落ちる。


紫だった空間に、巨大な裂け目が走っていた。


その向こう側には、“何もない”。


光でもない。


闇でもない。


ただ。


観測できない空白。


クロエが息を呑む。


「……なんだよ、アレ」


エルが解析を試みる。


だが。


ノイズ。


「解析不能」


「観測範囲外領域を確認」


ノクティスが空を見る。


静かな瞳。


その表情は、ほとんど変わらない。


「境界消失が始まった」


セレナが反応する。


「……早すぎる」


ノクスが舌打ちする。


「レグルスが無理に固定し続けた反動だ」


レグルスは動かない。


だが。


その輪郭も、崩れ始めていた。


固定された存在。


なのに今、最も不安定になっている。


レグルスが低く呟く。


「……誤差」


「想定外」


クロエが睨む。


「全部お前のせいだろ」


レグルスが静かに返す。


「違う」


初めて。


その声に、微かな感情が混ざる。


「選択が、境界を壊した」


クロエが一歩出る。


「だからって、止まれば良かったのかよ」


レグルスは答えない。


沈黙。


空間だけが、崩れていく。


その時。


裂けた空の奥から、何かが落ちる。


黒い影。


白い影。


無数。


クロエが目を見開く。


「……なんだ、あれ」


エルが解析する。


「未分類観測体」


「存在情報――不安定」


ノクティスが小さく目を細める。


「境界の外に押し出されていた観測残滓か」


クロエが顔をしかめる。


「観測……何?」


ノクスが雑に答える。


「選ばれなかった可能性のゴミだ」


「言い方!」


クロエが即座に突っ込む。


だが。


落ちてきた影は、笑っていなかった。


泣いている。


叫んでいる。


壊れながら。


世界へ侵入してくる。


セレナが構える。


「来るぞ!」


次の瞬間。


無数の残滓が、一斉に襲いかかる。


クロエが飛び出す。


黒い羽。


加速。


衝突。


影を叩き落とす。


だが。


触れた瞬間。


クロエの脳裏へ、知らない記憶が流れ込む。


壊れた未来。


死んだ仲間。


止まった世界。


選ばれなかった可能性。


クロエが顔を歪める。


「っ……!!」


ノクティスが即座に言う。


「見るな」


冷たい声。


「引き込まれる」


その瞬間。


ノクティスの周囲に、白い観測線が展開される。


侵入した残滓が、次々と停止する。


だが。


完全には止まらない。


ノクスが笑う。


「増えすぎだろ」


黒い羽が舞う。


崩壊。


終焉。


残滓が、次々と砕ける。


それでも。


空の裂け目は、さらに広がっていく。


エルのノイズが、急激に増大する。


「警告」


「境界維持率――」


ノイズ。


「限界値到達」


沈黙。


そして。


レグルスが、ゆっくり空を見上げる。


「……もう遅い」


その瞬間。


裂けた空の奥で。


“巨大な瞳”が、静かに開いた。

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