第20話:落下の先
落ちている。
光の中を。
感覚が、定まらない。
上下も。
距離も。
時間すら、曖昧だった。
クロエは、目を閉じる。
耳鳴り。
世界が砕けた音が、まだ残っている。
レグルスの声。
「選択は、破滅を生む」
その言葉が、何度も反響する。
クロエは、小さく笑う。
「うるせぇよ……」
次の瞬間。
衝撃。
世界が切り替わる。
クロエの体が、地面へ叩きつけられる。
「っ、ぁ……!」
痛み。
鈍い感覚。
だが。
確かだった。
クロエがゆっくり顔を上げる。
崩れた街。
紫に濁った空。
割れた空間。
見慣れた、壊れかけの世界。
クロエは息を吐く。
「……戻った」
その瞬間。
激痛。
「――っ!?」
左腕。
輪郭が、崩れる。
幸福世界では消えていたはずの代償。
それが、一気に戻る。
指先がノイズになる。
クロエが歯を食いしばる。
「今さらかよ……!」
空間が揺れる。
遠くで爆音。
戦闘は終わっていない。
レグルスは、まだ存在している。
その時。
「クロエ!」
声。
セレナ。
崩れた瓦礫の向こうから、走ってくる。
傷だらけだった。
呼吸も荒い。
だが。
ちゃんと“生きてる”。
クロエが笑う。
「……その顔、安心するわ」
セレナが眉をひそめる。
「は?」
クロエ。
「ちゃんと不機嫌」
セレナが呆れる。
「お前な……」
その隣。
静かに、エルが立っている。
ノイズ混じりの輪郭。
以前より、少し薄い存在。
瞳だけが、静かにレグルスを見ている。
クロエは一瞬、その横顔を見る。
同じはずなのに。
少しだけ、遠い。
エルが告げる。
「空間固定率、低下を確認」
「現在、誤差発生中」
その声も、どこかノイズ混じりだった。
空間全体が、震える。
圧。
重い。
確定の力。
クロエとセレナの表情が変わる。
前方。
空間が、静止している。
瓦礫も。
風も。
崩落すら止まっている。
その中心。
レグルス。
静かに立っている。
だが。
以前とは違った。
輪郭に、微かなノイズ。
固定が、揺らいでいる。
レグルスが言う。
「……理解不能」
その声には、初めて“感情”が混ざっていた。
「なぜ、拒絶した」
クロエが立ち上がる。
崩れる左腕。
それでも。
笑う。
「そりゃ」
拳を握る。
ノイズが散る。
「苦しい方が、“生きてる”感じするからじゃね?」
セレナが呆れたように息を吐く。
「最悪の回答だな」
クロエが笑う。
「だろ?」
その時。
空間の奥。
崩れたビルの上。
梟がいる。
静かに。
こちらを見ている。
ノクティス。
だが今回は、目を逸らさない。
まるで。
“選択の続きを見届ける”みたいに。
レグルスが、ゆっくりと手を上げる。
空間が固定される。
だが。
以前ほど、絶対じゃない。
クロエが気づく。
「……穴、あるな」
セレナも頷く。
「揺らいでいる」
エルの瞳に、微かなノイズが走る。
「未確定領域――残存」
以前のエルと同じ声。
だが。
どこか、“外側”が混ざっている。
それでも。
クロエは笑った。
ちゃんと、そこにいるから。
クロエが前を見る。
「続き、やろうぜ」
レグルス。
セレナ。
エル。
崩れた世界。
その全部へ向けて。
クロエは、もう一度踏み込んだ。
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