第16話:外側から見えるもの
崩れた空間。
未確定の風。
クロエは、静かに息を吐く。
エルは戻った。
だが、以前と同じではない。
セレナも分かっている。
それでも、誰も口にしない。
沈黙の中。
エルが言う。
「レグルスの固定精度、低下を確認」
クロエが笑う。
「なら、次は勝てる?」
エル。
「不明」
即答。
「現在も敗北確率は高い」
クロエが顔をしかめる。
「だよねぇ」
その時。
空間が、揺れる。
セレナが反応する。
「……誰かいる」
殺気ではない。
だが。
“見られている”。
クロエが振り向く。
そこには、誰もいない。
なのに。
気配だけが、ある。
エルが解析する。
「観測反応――異常」
「座標固定不可」
その瞬間。
空間の奥。
“梟”がいる。
静かに。
ただ、見ている。
黒でも白でもない羽。
世界の揺らぎの中でさえ、
そこだけが妙に静かだった。
クロエの目が細くなる。
「……ノクティス」
梟は鳴かない。
ただ。
エルを見る。
その瞬間。
一瞬だけ。
“人”の輪郭が重なる。
長い髪。
静かな瞳。
だが、次の瞬間には消える。
クロエが小さく笑う。
「相変わらず、気味悪ぃ出方」
セレナが低く言う。
「何をしに来た」
わずかな沈黙。
そして。
声だけが落ちる。
「固定できるわけないだろ」
静かな声。
空間の“外側”から響く。
クロエが眉をひそめる。
「……相変わらず説明不足だな」
梟の羽が、わずかに揺れる。
「レグルスは、まだ完成していない」
沈黙。
セレナが反応する。
「……何?」
ノクティス。
「“固定”は完成系じゃない」
「今のあいつは、まだ途中だ」
クロエが顔をしかめる。
「途中でアレ?」
ほんの一瞬。
また、人の輪郭が重なる。
「完成すれば」
わずかな間。
「選択そのものが消える」
空気が、止まる。
エルのノイズが、微かに強くなる。
セレナが低く呟く。
「……世界の停止か」
ノクティス。
「近い」
クロエが乾いた笑みを浮かべる。
「最悪じゃん」
梟は、ただ“外側”を見ている。
まるで。
もっと先を知っているように。
そして。
「選択は加速している」
短い言葉。
セレナが目を細める。
「……何が言いたい」
ノクティス。
「遅れれば、固定される」
クロエが舌打ちする。
「だから説明が足りねぇって」
その瞬間。
梟の輪郭に、また人影が重なる。
今度は、少しだけ近い。
「だから」
静かな声。
「壊れる前に選べ」
クロエの視線が、わずかに揺れる。
次の瞬間。
空間が、ノイズになる。
梟の姿が、揺らぐ。
消える直前。
ノクティスの視線が、エルへ向く。
ほんのわずかに。
「……残ったか」
誰にも聞こえないほど小さく。
そして。
消える。
静寂。
クロエが息を吐く。
「……なんなんだ、あいつ」
セレナ。
「昔から、ああだ」
エルが続ける。
「観測分類、不能」
一瞬、処理が止まる。
「だが――」
「最も“外側”に近い」
風が吹く。
まだ、決着には遠い。
だが。
確実に。
終わりは、近づいていた。
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