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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 ~終わりを選び、未来を奪い返せ~  作者:
第三章:観測外領域 ― 選択の代償

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第15話:観測されなかったもの

静かだった。


戦闘の余波が、まだ空間に残っている。


クロエは、立ったまま動かない。


「……エル」


返事は、ない。


セレナが言う。


「……消えた」


クロエが首を振る。


「違う」


小さく。


「まだ、いる」


だが――


どこにもいない。


沈黙。


エルのいた場所。


そこに、わずかなノイズが残る。


セレナが目を細める。


「……残留記録か」


エルの声ではない。


だが。


“似ている”。


クロエが近づく。


「……なんかある」


手を伸ばす。


触れられない。


だが。


“反応”する。


エルのログが、再生される。


「記録補完、開始」


途切れ途切れの声。


ノイズ混じり。


だが、確かにエルだ。


クロエが息を呑む。


「……エル」


ログが続く。


「自己定義、更新」


セレナが言う。


「……後処理か」


エルの声。


「私は単一個体ではない」


沈黙。


クロエの目が揺れる。


「……何言ってんだ」


エルが続ける。


「観測ログ照合完了」


「一致率、低」


「原因――」


ノイズ。


一瞬、音が歪む。


「未選択観測の蓄積」


セレナが、わずかに息を止める。


クロエが呟く。


「……未選択?」


エルの声。


「採用されなかった視点」


「記録されなかった結果」


「成立しなかった観測」


間。


「それらの集合体」


静寂。


クロエが理解する。


「……じゃあお前」


言葉が、少し遅れる。


「最初から……一人じゃなかったのか」


エル。


「肯定」


「個体としての整合性は、仮定」


セレナが低く言う。


「だから、崩せたのか」


エル。


「肯定」


「分割、削減が可能だった理由」


クロエの手が、わずかに震える。


「……ふざけんな」


小さく。


「じゃあさ」


顔を上げる。


「お前、戻れるのかよ」


沈黙。


ノイズが走る。


エルの声が、わずかに乱れる。


「……復帰」


一瞬。


「不可能」


静寂。


クロエの表情が、止まる。


セレナが目を閉じる。


だが。


エルは、続ける。


「ただし」


クロエが反応する。


エル。


「観測は継続される」


「個体としての再構成は不可」


「だが――」


わずかな間。


「影響は残る」


クロエが呟く。


「……いるってことか」


エル。


「定義上は」


「存在」


ノイズが、強くなる。


ログが崩れ始める。


セレナが言う。


「……時間がない」


クロエが一歩近づく。


「おい、まだ――」


エルの最後の声。


「選択は、継続される」


「観測は――」


ノイズ。


「外側へ」


途切れる。


完全な沈黙。


何も残らない。


だが。


空間に、わずかな“ズレ”が残る。


クロエが、そこを見つめる。


長い沈黙。


そして。


小さく笑う。


「……そっか」


振り向く。


セレナを見る。


「完全に消えたわけじゃない」


セレナが頷く。


「ああ」


クロエが空を見る。


歪んだ世界。


まだ、選べる場所。


「じゃあさ」


拳を握る。


欠けた指先。


それでも。


「見てろよ」


「ちゃんと、選ぶから」


風が、吹く。


ほんのわずかに。

読んでいただきありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!

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