第13話:削りながら、壊れる
空間は歪んでいる。
だが――
三人は、止まらない。
クロエが立つ。
「やるよ」
セレナが頷く。
「ああ」
エルが応じる。
「戦闘処理、再開」
クロエが、自分の手を見る。
欠けた指先。
ほんの一瞬、迷う。
「……いける」
次の瞬間。
“削る”。
意図的に。
輪郭が、崩れる。
指先がほどける。
紫の粒子が、流れ落ちた。
セレナが声を上げる。
「クロエ!」
クロエは笑う。
「平気」
即答。
エルが解析する。
「存在密度、低下」
「固定対象外、移行」
クロエの姿が、揺れる。
一瞬、二重。
次の瞬間には、どちらでもない。
踏み込む。
止まらない。
レグルスの領域へ入る。
「……来たか」
クロエが笑う。
「今度はさ」
拳を握る。
「止められないでしょ」
踏み込み。
軌道が定まらない。
結果が決まらない。
レグルスの固定が、追いつかない。
“当たる可能性”が残る。
セレナが重ねる。
羽が広がる。
白に混ざる黒が、さらに濃くなる。
「合わせる!」
エルが演算を流し込む。
「不確定領域、拡張」
三つの動きが、重なる。
“確定しない攻撃”。
レグルスの周囲に、歪みが走る。
「……誤差増加」
初めての遅延。
クロエが踏み切る。
「いける――」
その瞬間。
視界が、ズレた。
「……え」
足の位置が、わからない。
踏んだ感触が、遅れてくる。
セレナの声が、遠い。
「クロエ!」
エルが告げる。
「異常発生」
「自己認識――不安定」
クロエが、手を見る。
それが、“自分のもの”と断定できない。
「……なにこれ」
握る。
遅れて、閉じる。
ズレる。
エルが続ける。
「想定外の代償」
セレナが低く言う。
「……やめろ」
エルが言う。
「個体識別情報、崩壊」
クロエが、笑う。
少し遅れて。
「……それさ」
一拍。
「“自分じゃなくなる”ってこと?」
エル。
「……肯定」
沈黙。
だが。
レグルスは止まらない。
「不安定化を確認」
一歩。
「排除は容易」
クロエが顔を上げる。
視界が、二重。
セレナが二人いる。
エルの声が重なる。
それでも。
笑う。
「いいじゃん」
セレナが怒る。
「よくない!」
クロエが返す。
「効いてるってことだろ」
一歩、踏み出す。
ズレる。
それでも前へ。
「だったら――」
笑う。
「削る価値、ある」
さらに、削れる。
輪郭が薄くなる。
セレナが言う。
「止まれ」
クロエが首を振る。
「止まったら終わり」
エルが揺れる。
「……このままでは」
言葉が、欠ける。
クロエが見る。
「分かってる」
短く。
「でも、やる」
前を見る。
揺れない存在。
レグルス。
それに対して。
崩れながら進む。
「どっちが先に壊れるか」
笑う。
「勝負しようぜ」
衝突。
確定と未確定。
相反がぶつかる。
その中で。
クロエの中に、空白が生まれる。
「……」
名前が、出ない。
一瞬。
何もない。
次の瞬間。
戻る。
「……まだ、いける」
だが。
もう。
削っているものを、完全には把握していない。
戦いは続く。
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