第3話:白に混ざるもの
風が、重い。
クロエは肩を軽く回した。
「……なんか、増えた感じする」
胸の奥。
抱えた“何か”の重み。
セレナが横目で見る。
「当然だ」
短く言った。
「選ばなかったものを、持ち込んだ」
エルが補足する。
「内部構造、複雑化」
「安定性――低下傾向」
クロエが苦笑した。
「だよね」
その時。
セレナが、わずかに足を止める。
「……どうした?」
クロエが振り返る。
だが、セレナは答えない。
ただ、自分の手を見つめていた。
白い手。
――のはずだった。
「……混ざっている」
その指先に。
ほんのわずかに、“黒”が滲んでいる。
クロエが目を細める。
「それ……」
エルが即座に解析する。
「外部影響、検出」
「由来――クロエ内部変化との同期反応」
セレナが静かに言う。
「連動、か」
クロエが苦く笑った。
「うわ、巻き込み系じゃん」
セレナは否定しない。
むしろ――
「……悪くない」
小さく呟く。
クロエが眉を上げた。
「は?」
セレナが手を握る。
黒が、わずかに広がる。
だが。
その“混ざり”は、崩れではない。
“干渉”。
「純粋すぎるのも、不安定だ」
クロエが笑う。
「今それ言う?」
その瞬間。
空間が強く歪む。
エルが警告する。
「未選択存在、再反応」
だが――
さっきと違う。
揺らぎが、二つ。
クロエが呟く。
「増えてない?」
セレナが前に出た。
「ああ」
「今度は、“私の方”だ」
空間が裂ける。
そこから現れたのは、白い影。
だが――
完全な白ではない。
どこか、濁っている。
「……やっぱり来るか」
それが、形になる。
セレナと同じ姿。
だが、その瞳には“迷い”があった。
「あなたは……選んだのね」
静かな声。
セレナが答える。
「ああ」
一歩、前へ出る。
「では――」
“もう一人のセレナ”が言う。
「迷わなかった私を、どうするの?」
沈黙。
クロエが小さく呟く。
「来たね……」
エルが解析する。
「未選択存在:感情固定型」
セレナは、目を逸らさない。
「どうもしない」
即答だった。
“それ”の表情が揺れる。
「排除もしない」
さらに一歩。
「だが――同じにもならない」
空気が張り詰める。
“もう一人のセレナ”が問う。
「なぜ?」
セレナは静かに答えた。
「私は、“迷った”からだ」
その瞬間。
空間が大きく歪む。
“それ”が、揺れる。
「……矛盾している」
セレナが言う。
「そうだな」
「だが、それでいい」
手を伸ばす。
白と黒が、同時に滲む。
「私は、“選んだ私”だ」
接触。
その瞬間。
“それ”が崩れる。
だが――消えない。
セレナの中へ、流れ込む。
エルが記録する。
「自己統合、進行」
クロエが息を吐く。
「強引……」
セレナが、わずかに揺れる。
その背に。
白い羽。
そして――
一部に、黒が混ざる。
「……なるほど」
セレナが呟く。
「これが、“代償”か」
クロエが笑った。
「おそろいじゃん」
セレナが一瞬だけ睨む。
「軽く言うな」
だが。
否定はしない。
エルが補足する。
「純度低下、確認」
「代替的に、干渉耐性上昇」
クロエが目を細める。
「強くなってない?」
セレナが答える。
「代わりに、“戻れない”」
沈黙。
その言葉が、静かに落ちた。
風が吹く。
今度は、さらに重い。
クロエが空を見上げる。
「どんどん進むね」
セレナが並ぶ。
「ああ」
「戻る道は、消えていく」
エルが記録する。
「不可逆性、増大」
三人が、同じ方向を見る。
その先。
わずかに、“別の揺らぎ”がある。
クロエが呟く。
「……あれ、違う」
セレナも気づく。
「ああ」
エルが解析する。
「未選択存在――否定」
沈黙。
クロエが、小さく笑う。
「来るね」
それは。
“最初に出会ったもの”。
まだ、名前もなかった存在。
そして今は――
「……イブ」
揺らぎが、ゆっくりと形を持ち始める。
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