開章:遅れて成立する世界
本作は『黒翼契約譚』の続編です。
前章からの流れを踏まえた内容となっておりますので、未読の方はそちらからの閲覧をおすすめします。
本章では「代償」を主題に、選択が何を失わせるのかという一点に焦点を当てて物語が進行していきます。
すべての決定には、等価ではない“喪失”が伴います。
引き続き、お楽しみいただければ幸いです。
風が、ない。
クロエは足を止めた。
「……止まってる」
違う。
“存在していない”。
セレナが周囲を見る。
空はある。
地面もある。
景色は崩れていない。
だが――
「……音が遅れる」
足音が、あとから来る。
エルが応じる。
「観測処理――異常」
「時間軸、同期不全」
わずかな間。
「現在位置――不明」
クロエが一歩踏み出す。
踏んだはずの足が、
“あとから”そこに存在する。
「……は?」
セレナが低く言う。
「順序がズレている」
原因と結果。
行動と成立。
その関係が、成立していない。
エルが告げる。
「観測順序、未確定」
「結果の固定、未成立」
つまり――
まだ、決まっていない。
クロエが、空に手を伸ばす。
何もない場所へ。
「……選ぶよ」
その瞬間。
遅れていた“結果”が追いつく。
風が、生まれる。
音が、成立する。
世界が、固定される。
セレナが目を細める。
「……今のは」
エルが答える。
「選択による、現実確定」
クロエが息を吐く。
「なるほどね」
空を見る。
まだ、何も決まっていない空。
「じゃあさ」
一瞬、間を置く。
「間違えたら――どうなる?」
沈黙。
エルが、わずかに遅れて応じる。
「……未観測」
セレナが続ける。
「保証はない、か」
クロエが小さく笑う。
「いいじゃん」
一歩、踏み出す。
何かが、わずかにズレる。
セレナの視線が、ほんの一瞬だけ遅れる。
エルの記録に、微細な空白。
誰も、まだ言わない。
クロエだけが、気づく。
「……もう始まってるな」
風が、吹く。
今度は、確かに。
ここは――観測の外。
選ばなければ、存在しない世界。
そして。
選ぶたびに、何かが削れていく。
“結果は、あとから来る”。
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