第1話:外側侵入
空は、静かだった。
――そのはずだった。
「……来る」
クロエが呟いた瞬間。
音もなく、空が“剥がれた”。
青が裂ける。
その奥にあるのは、空ではない。
色にならない色。形にならない何か。
“外側”。
⸻
次の瞬間。
地面が消えた。
「っ――!?」
クロエの足場が、存在ごと抜け落ちる。
だが落ちない。
落ちるという“結果”が、成立しない。
「なにこれ……!」
ノクスが低く笑う。
「いいな、ルールがねぇ」
⸻
セレナが即座に動く。
「固定する」
光が走る。
周囲の空間を“現実”へと縫い止める。
崩れていた地面が、無理やり形を取り戻す。
「足場、確保!」
クロエが着地する。
「助かる!」
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だが。
次の瞬間。
“それ”は現れた。
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人の形。
だが、輪郭が定まらない。
見えているのに、確定しない。
そこにいるのに、“存在していない”。
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「……なんだ、あれ」
クロエが眉をひそめる。
ノクティアが応答する。
「観測前状態の存在を確認」
「定義不能」
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“それ”が、動いた。
動いた――はずなのに。
過程が存在しない。
気づいた時には、目の前にいた。
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「――っ!?」
クロエが反応するより早く。
腕のような何かが振るわれる。
だが。
当たらない。
当たった“結果”が、成立していない。
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「は?」
クロエが一瞬止まる。
その隙を。
“それ”は見逃さない。
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セレナが割り込む。
「下がれ!」
光が展開される。
断罪執行。
直撃。
だが――
「……通ってない?」
確かに当たった。
だが、“当たったという事実”が残らない。
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エルが前に出る。
「構造干渉、展開」
白が広がる。
空間そのものを書き換える。
「存在を――“確定させる”」
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その瞬間。
“それ”の輪郭が、一瞬だけ定まる。
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クロエは迷わない。
「そこ!」
踏み込む。
影走。
一瞬で距離を詰める。
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「終焉一閃!」
黒が走る。
今度は――
「……当たった!」
確かな手応え。
“それ”の一部が、崩れる。
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だが。
崩れたはずのそれは――
“なかったこと”になる。
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「はぁ!?」
クロエが叫ぶ。
元に戻っている。
最初から、何もなかったかのように。
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ノクティアが告げる。
「現象確認」
「結果の否定」
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セレナが歯を食いしばる。
「……因果そのものを、拒否している」
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“それ”が、再び動く。
今度は複数。
空間のあちこちに、“同時に”出現する。
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「増えたんだけど!?」
クロエが構える。
ノクスが笑う。
「いいねぇ、最高だ」
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エルが冷静に分析する。
「単体ではない」
「“可能性”そのものが侵入している」
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つまり。
一つではない。
確定していないから――
いくらでも“存在できる”。
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クロエが小さく息を吐く。
「……なるほどね」
理解した。
「普通にやっても無理じゃん」
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セレナが頷く。
「ああ」
短く。
だが、はっきりと。
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クロエが笑う。
「じゃあ――やり方変えるか」
黒が揺れる。
終焉が、わずかに深くなる。
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エルが視線を向ける。
「……何をするつもりだ」
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クロエは答える。
軽く。
当たり前のように。
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「全部まとめて“終わらせる”」
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その瞬間。
黒が、空間ごと広がる。
⸻
戦場のルールが――
さらに一段、壊れた。
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