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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 ~終わりを選び、未来を奪い返せ~  作者:
第一章:固定された世界

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番外編:黒の記憶

それは、“終わり”が生まれた日の記憶。

少女は知らなかった。

自分が――すべてを終わらせる存在だと。

そして、初めて“拒絶”した。


それは――断片的な記憶。

壊れた映像のように、途切れている。


夕焼け。赤く染まった空。

その下で、少女は笑っていた。


『クロエ』

誰かが名前を呼ぶ。

優しい声。温かい手。

「早く帰ろう」


少女は頷く。

その時は、まだ――普通だった。



次の瞬間、世界が崩れる。

音。悲鳴。光。


そして――黒。


「……なに、これ」

幼いクロエは立ち尽くす。

周囲が、消えていく。

建物が、空が、人が――“削れていく”。


「やだ……」

手を伸ばす。届かない。

触れた瞬間――消える。


「……いや」

理解できない。理解したくない。

だが、それは止まらない。



「……クロエ」

背後から声。振り向く。

そこには――誰かがいた。

顔は思い出せない。

ただ、微笑んでいた。


「大丈夫」

優しく、静かに。

「怖くない」


その言葉と同時に、黒が溢れる。

クロエの中から――


「――っ!!」

叫びにならない声。

世界が、一瞬で消えた。


静寂。何もない。

本当に、“何もない”。

クロエだけが、そこに立っている。


「……なに、これ」

同じ言葉でも、意味は違う。


足元が崩れる。存在が揺らぐ。


その時――影が動いた。

「……やっとか」

低い声。黒の中から現れる。


鴉。

ノクス。


「遅ぇよ」

クロエは震えながら見上げる。


「……だれ」


ノクスは笑う。

「お前の“終わり”だ」


意味はわからない。だが妙に、しっくり来た。


「……終わり」

ノクスが近づく。

「全部、消したな」


淡々と、事実だけを告げる。

クロエの瞳が揺れる。


「……ちが」

否定しようとして、止まる。

思い出す。触れたものが、消えた感触。


「……私」

声が震える。

「やったの……?」


ノクスは答えない。

ただ、短く言う。

「受け入れろ。それが、お前だ」


沈黙。涙が落ちる。

だが、地面に触れる前に――消える。


「……やだ」

クロエはしゃがみ込む。

「こんなの……やだ」


初めての拒絶。初めての感情。

ノクスは、それを見て。

「……いいねぇ」

少しだけ、楽しそうに笑う。

「壊れてねぇ」



クロエは顔を上げる。涙でぐちゃぐちゃのまま。


「……どうすればいいの」


ノクスは少し間を置き、言う。

「簡単だ」


翼が、広がる。

黒い翼。禍々しく、それでも美しい。


「使え」

クロエの背中に、何かが触れる。

熱い。痛い。でも――嫌じゃない。


「終わらせろ」

その言葉が、深く刺さる。

クロエの背から――黒翼が現れる。


「――っ」

初めての力。初めての理解。


「……これが」

手を見る。震えている。

だが――

「……私」


ノクスが頷く。

「そうだ。お前は“終焉”だ」


その瞬間、記憶が閉じる。



現在。

クロエは目を開ける。

廃ビルの中。静かな呼吸。


「……夢」

小さく呟く。

だが、手を見つめる。わずかに震えている。


隣では、セレナが眠っている。穏やかな顔。

クロエは、少しだけ笑う。

「……消したくないな」


小さな声。

過去の自分とは、違う選択。


ノクスが低く呟く。

「変わったな」


クロエは肩をすくめる。

「そりゃね。終わらせるだけじゃ、つまんないし」


ノクスが笑う。

「いいねぇ」


その変化が、未来を変える。

遠くで、ノクティアが静かに見ていた。

その観測は――もはや“記録”ではない。


「……変動」

小さく。確かに。

世界が、動き出している。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

“終わらせるだけの存在”だった少女は、

初めて“終わらせない”という選択をした。

――その矛盾が、世界を壊す。

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