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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 ~終わりを選び、未来を奪い返せ~  作者:
第一章:固定された世界

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第10話:静かな距離

第10話です。


少しだけ、静かな時間。


戦いの合間にある――

ほんのわずかな“余白”のような回です。


夜。


追跡の気配は、わずかに遠のいていた。


「……ここなら」

クロエが足を止める。廃ビルの一角。崩れかけた空間だが、身を隠すには十分だった。


セレナも静かに頷く。

「観測反応、微弱」


完全ではない。だが、今は――休める。


クロエは座り込み、素直に吐く。

「……疲れた」


黒翼は、もう出ていない。

ノクスも静か。

セレナは少し離れた場所に立つ。数メートルの距離。だが――心の距離はそれ以上に遠い。


「……大丈夫?」

クロエが声をかける。

セレナは迷いながらも答える。

「問題ない」

少し柔らかい、その返答。


沈黙。風の音だけが響く。


クロエがぽつりと尋ねる。

「セラフィムってさ、どんなとこ?」


セレナの肩がわずかに揺れる。

「……管理機構」

短い答え。世界の均衡維持を目的とした、観測・修正組織。


クロエは苦笑する。

「やっぱ堅いなぁ」


少し間を置いて、もう一つ。

「楽しかった?」


セレナは答えられない。

「……楽しい、という概念は――」

思い出す。クロエの戦い方、あの言葉――「楽しい」。


「……不明」

ようやく出た答えに、クロエは小さく笑う。

「そっか」

それ以上は聞かない。優しさが逆に残る。


セレナはゆっくりと座った。クロエの隣に。

ほんの少しだけ距離を詰めて。


「……クロエ」

名前を口にする。少しぎこちない。


クロエは驚く。

「なに?」


セレナは視線を落とす。言葉を探す。

「……なぜ、私を助けた」


クロエは少し考え、答える。

「助けたいって思ったから」


セレナは思考を止める。

「……理由になっていない」

「うん」

クロエはあっさり頷く。

「でも、それでいいかなって」


静かな空間。セレナは初めて“理解できないもの”を否定しなかった。


「……非合理」

少しだけ、ほんの少しだけ表情が緩む。


その時、ノクティアがゆっくり羽ばたき、二人の間に降りる。

見つめるように。


「……この子さ」

クロエが呟く。

「結局なんなの?」


セレナは視線を向ける。

観測補助機構オラクル・ユニット……だったはず」


ノクティアは何も言わない。ただ、クロエを見ている。選ぶように。


「……変だよね」

クロエが笑う。

「でもさ、助けてくれてるっぽいし」

セレナは否定しなかった。


「……観測不能領域。あなたの周囲では、すべてが変わる」


クロエは首をかしげる。

「そんな大したもんじゃないよ」

セレナは静かに首を振る。

「違う」

はっきりと。

「あなたは――特異点」


クロエは少し困った顔をし、笑う。

「よくわかんないけど、よろしくね」

手を差し出す。


セレナは一瞬迷うが、手を取る。

ほんの少しだけ、触れるだけ。

それでも確かな接触。


遠くで、空間が歪む。

「……来る」

セレナの表情が引き締まる。

クロエも立ち上がる。

「もう?」

ノクスが低く笑う。

「休憩終了だな」


ノクティアが空を見上げる。観測が再び動き出す。


セレナはクロエを見る。迷いなく。

「行こう」

クロエは頷く。

「うん」


二人は走り出す。

追われる者として。だが、もう一人ではない。


静かな夜は終わりを告げ、再び――戦いが始まる。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


束の間の休息の中で、クロエとセレナの距離が少しだけ縮まりました。

言葉にできないものも含めて、関係は確実に変わり始めています。


ですが、状況は変わらず――追跡は続いています。


静かな時間は終わり、再び戦いへ。


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