第21話:迎え
静寂。
誰も動かなかった。
裂け目の向こう。
外側の存在。
無数の瞳。
巨大な顔。
その全てが。
最初のクロエだけを見ていた。
クロエは息を呑む。
嫌な予感がする。
本能が叫んでいた。
駄目だ。
行かせるな。
だが。
理由は分からない。
最初のクロエは空を見上げる。
群青の瞳。
そこに恐怖はなかった。
むしろ。
諦めに近かった。
『そっか』
小さく呟く。
『やっと終わるんだ』
クロエの胸がざわつく。
「待て」
少女は振り向かない。
「待てよ」
今度は大きな声。
観測深層が揺れる。
少女の肩が止まる。
クロエは一歩前へ出た。
「終わるって何だよ」
少女は静かだった。
長い沈黙。
そして。
『疲れたんだ』
その言葉は。
あまりにも小さかった。
クロエの呼吸が止まる。
少女は続ける。
『何万回も』
『何万回も』
『世界が壊れるのを見た』
群青の瞳が揺れる。
『みんな消えた』
『何度も』
『何度も』
エルを見る。
セレナを見る。
ノクスを見る。
そして。
今のクロエを見る。
『君も見たよ』
静寂。
『いっぱい』
クロエは何も言えない。
少女の声には。
怒りもない。
恨みもない。
ただ。
積み重なった時間だけがあった。
裂け目の向こう。
外側の存在が。
ゆっくり手を伸ばす。
今までの指とは違う。
腕。
本当の腕。
世界を覆うほど巨大な腕。
観測深層が悲鳴を上げる。
セレナが前へ出る。
「下がれ!」
白銀の翼が広がる。
黒いノイズが走る。
エルも立つ。
存在が崩れながら。
それでも。
前へ。
だが。
最初のクロエは首を振った。
『駄目』
セレナ。
「何?」
少女は静かに笑う。
『この人は』
『私を迎えに来ただけ』
空気が凍る。
ノクスが顔をしかめる。
「迎え?」
少女は頷く。
『約束だったから』
クロエの瞳が揺れる。
約束。
またその言葉。
エルとの約束。
世界との約束。
そして。
外側との約束。
全てが繋がり始める。
その瞬間。
クロエの継承記録が開く。
深層主の最後の記録。
最も古い記録。
最初の観測の日。
そこに。
確かに映っていた。
幼い群青の瞳の少女。
そして。
空の向こうの存在。
二人は。
言葉を交わしていた。
『見つけた』
外側の存在。
『君を覚えておく』
少女。
『なら』
『私も覚えてる』
記録が途切れる。
クロエの顔色が変わる。
まさか。
最初のクロエは。
ずっと。
観測され続けていた。
だから消えない。
だから残った。
だから。
迎えが来た。
少女は静かに空を見る。
群青の瞳に。
ほんの少しだけ涙が浮かぶ。
『長かったなぁ』
その瞬間。
観測深層の最奥で。
誰かが笑った。
聞いたことのない声。
だが。
どこか懐かしい声。
そして。
深層のさらに奥。
存在するはずのない場所に。
もう一つの扉が現れた。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!




