第19話:覚えている者
無数の瞳が開く。
裂け目の向こう。
外側の存在の周囲。
闇の中。
星のように。
深海生物の眼光のように。
無数。
無限。
数える事すらできない。
クロエは息を呑む。
見られている。
いや。
探されている。
その感覚だけが、
全身へ張り付いていた。
最初のクロエは静かだった。
群青の瞳。
揺れない。
恐怖もない。
絶望もない。
ただ。
長い時間の果てに辿り着いたような静けさ。
クロエが叫ぶ。
「何なんだよ!」
群青の瞳がこちらを向く。
「何を知ってる!」
「何を隠してる!」
観測深層が揺れる。
裂け目の向こうで。
無数の瞳が瞬く。
最初のクロエは少しだけ笑った。
『全部は知らない』
クロエ。
「嘘だろ」
『本当』
静かな声。
『だって』
『何万回も失敗したから』
その言葉は重かった。
諦めではない。
事実だった。
セレナが前へ出る。
銀髪が揺れる。
「その存在は何だ」
群青の瞳が細くなる。
裂け目を見る。
外側を見る。
そして。
小さく呟いた。
『観測者』
空気が止まる。
エルの瞳が揺れる。
ノクスが眉をひそめる。
クロエ。
「観測者?」
少女は頷く。
『世界を見ている』
『可能性を見ている』
『失敗を見ている』
『成功を探している』
静寂。
誰も口を開けない。
クロエだけが言う。
「成功?」
少女の表情が曇る。
初めてだった。
群青の瞳の奥に。
悲しみが浮かぶ。
『見つからなかった』
深層が静まる。
『だから』
『何万回も繰り返した』
その瞬間。
クロエの胸がざわつく。
何かが引っかかる。
違和感。
最初からずっとあった違和感。
クロエは少女を見る。
じっと。
そして。
気付いてしまう。
「……お前」
少女が顔を上げる。
クロエ。
「なんで覚えてるんだ」
空気が変わる。
エルが少女を見る。
セレナも。
ノクスも。
全員が同じ疑問に辿り着いていた。
世界は消えた。
失敗した。
何万回も。
なら。
なぜ。
この少女だけが残った。
なぜ。
全てを覚えている。
群青の瞳が揺れる。
長い沈黙。
そして。
初めて。
少女の顔から笑みが消えた。
『……それは』
深層の最奥が震える。
観測線が揺れる。
裂け目の向こう。
外側の存在が。
ゆっくりと。
こちらへ近付いた。
そして。
少女は静かに答えた。
『私が』
『最初に観測されたから』
その瞬間。
クロエの中の継承記録が、
激しく反応した。
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