第17話:忘れられた可能性
静寂。
誰も言葉を発せなかった。
四本目の“指”が、
裂け目の向こうから現れている。
だが。
今はそれ以上に。
目の前の少女だった。
クロエ。
「……前の世界?」
少女は頷く。
ゆっくり。
当たり前の事を話すみたいに。
『そう』
『君の前』
『一つ前』
『正確には』
少し考える。
『何万回目かの前』
空気が止まる。
ノクス。
「おい」
頭を抱える。
「聞きたくない答えが返ってきたぞ」
セレナも息を呑む。
エルのノイズが揺れる。
「記録照合」
「該当情報なし」
少女は少し笑った。
『当然だよ』
『全部消えたから』
クロエは睨む。
「待て」
一歩前へ出る。
「じゃあ何だよ」
「私は何なんだ」
少女は答えない。
代わりに。
水面へ触れた。
波紋。
青い光。
その瞬間。
世界が変わる。
クロエの視界が反転した。
無数の空。
無数の世界。
無数の崩壊。
燃える都市。
沈む大地。
砕ける星。
その全てに。
クロエがいた。
別のクロエ。
違うクロエ。
失敗したクロエ。
消えたクロエ。
そして。
最後に。
群青の瞳の少女が立っている。
一人で。
何万回も。
何万回も。
何万回も。
世界の終わりを見続けていた。
クロエの喉が震える。
「……お前」
少女は静かに笑う。
その笑顔は。
どこか疲れていた。
『頑張ったよ』
誰に言うでもなく。
ぽつりと。
『本当に』
群青の瞳が揺れる。
『でも』
空を見る。
裂け目。
四本の指。
外側。
『全部失敗した』
深層が静まる。
観測線が止まる。
まるで。
世界そのものが、
その言葉を知っていた。
クロエは気付く。
この少女は。
強いんじゃない。
壊れかけている。
希望を失っている。
それでも。
立ち続けている。
そんな顔だった。
その時。
エルが前へ出た。
少女を見る。
静かに。
「質問」
少女。
『なに?』
エル。
「なぜ残っている」
空気が変わる。
少女の笑みが消える。
長い沈黙。
そして。
初めて。
彼女は少しだけ目を伏せた。
『約束したから』
クロエ。
「約束?」
少女は頷く。
そして。
ゆっくりエルを見る。
懐かしそうに。
悲しそうに。
『最後の君と』
エルの瞳が大きく揺れた。
その瞬間。
裂け目の向こう側で。
“何か”が動いた。
四本の指が止まる。
世界が静まる。
そして。
初めて。
外側の存在が。
こちらへ顔を向けた。
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