第16話:最初のクロエ
静寂。
誰も動けなかった。
クロエは、
目の前の少女を見る。
黒髪。
黒翼。
小柄な体。
そして。
深い群青の瞳。
まるで。
自分の未来と過去を、
同時に見ているようだった。
クロエが口を開く。
「……誰だよ」
少女は少し考える。
本当に少しだけ。
そして。
困ったように笑った。
『昔は名前があった』
『でも忘れた』
クロエ。
「忘れた?」
少女は頷く。
『長く居すぎたから』
深層が揺れる。
観測線が、
彼女の周囲を漂う。
まるで。
この空間そのものが、
少女を中心に回っているみたいだった。
エルの瞳が揺れる。
「観測照合」
ノイズ。
「一致率九十八・七パーセント」
空気が止まる。
クロエ。
「おい」
エル。
「クロエと同一存在判定」
クロエ。
「はぁ!?」
ノクスが頭を抱えた。
「また増えたよ!」
「なんなんだよこの世界!」
セレナが睨む。
「静かにしろ」
少女は笑った。
初めて。
少しだけ楽しそうに。
『賑やかになったね』
その言葉に。
クロエの胸がざわつく。
知っている。
この話し方。
この空気。
この笑い方。
どこかで。
確実に。
だが。
思い出せない。
その時。
少女の表情が変わる。
群青の瞳が、
裂け目の向こうを見る。
三本の“指”。
そのさらに奥。
外側。
少女は静かに呟いた。
『早いな』
ノクスの顔色が変わる。
「知ってんのか」
少女は頷く。
『知ってる』
『だって』
長い沈黙。
そして。
群青の瞳が細くなる。
『私は負けたから』
世界が凍る。
クロエの呼吸が止まる。
少女は続ける。
『みんな死んだ』
『世界も消えた』
『深層主も壊れた』
『エルも消えた』
エルの瞳が揺れる。
少女は彼を見る。
どこか懐かしそうに。
悲しそうに。
『今回は長く残ってるね』
エルが言葉を失う。
セレナも動けない。
クロエだけが叫んだ。
「待てよ!」
空気が震える。
「なんでそんな事知ってんだよ!」
少女は静かに見る。
深い群青の瞳。
何万もの失敗を見てきた目。
そして。
静かに答えた。
『だって私は』
『前の世界のクロエだから』
その瞬間。
裂け目の向こうから。
四本目の“指”が現れた。
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