第15話:最奥の扉
扉が開く。
ゆっくりと。
まるで、
何千年も閉ざされていたものが、
目を覚ますように。
深層最奥。
誰も知らない領域。
深層主ですら、
近付かなかった場所。
クロエの胸がざわつく。
継承した記録が、
警鐘を鳴らしていた。
危険。
未知。
未観測。
全ての感覚が、
同時に叫んでいる。
だが。
扉は止まらない。
深い青の光が漏れる。
静かに。
どこまでも静かに。
ノクスが顔をしかめた。
「……嫌な予感しかしねぇ」
クロエ。
「珍しく意見が合うな」
セレナも警戒を解かない。
翼のノイズが揺れる。
エルだけが、
扉を見つめていた。
銀髪が揺れる。
「記録照合」
ノイズ。
「該当なし」
「深層主管理外領域」
空気が止まる。
クロエ。
「管理外?」
エルが頷く。
「深層主も観測できなかった領域」
ノクス。
「そんな場所あるのかよ」
その瞬間。
扉が完全に開いた。
静寂。
何も起きない。
誰も動かない。
すると。
足音が響いた。
コツ。
コツ。
コツ。
扉の奥から。
誰かが歩いてくる。
クロエの背筋が凍る。
人影。
小柄。
黒い翼。
長い外套。
そして。
黒髪。
空気が止まった。
クロエが目を見開く。
その姿は。
自分に似ていた。
いや。
似ているどころじゃない。
ほぼ同じだった。
違うのは。
瞳。
両目とも深い群青。
観測深層そのものを
閉じ込めたような色。
少女は立ち止まる。
静かに。
クロエを見る。
長い沈黙。
そして。
ほんの少しだけ笑った。
『久しぶり』
クロエ。
「……は?」
少女は首を傾げる。
本当に不思議そうに。
『覚えてない?』
世界が静まる。
セレナも。
ノクスも。
エルも。
誰も言葉を失っていた。
少女は一歩近付く。
深い群青の瞳。
その奥には。
何万もの記録が揺れている。
そして。
静かに言った。
『私は』
『最初の失敗作』
その瞬間。
観測深層全体が、
大きく震えた。
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