第13話:継承
深層主が崩壊した。
青い光となって。
無数の記録となって。
観測深層そのものが、
砕け散っていく。
クロエは動けなかった。
流れ込んでくる。
記憶。
可能性。
失敗した世界。
消えた未来。
忘れられた命。
全部。
全部が、
頭の中へ流れ込む。
「あ……」
膝をつく。
呼吸ができない。
涙が零れる。
悲しい訳じゃない。
苦しい訳じゃない。
多すぎる。
世界一つ分の記録が、
人間一人へ流れ込んでいた。
セレナが叫ぶ。
「クロエ!」
駆け寄ろうとする。
だが。
青い光が、
彼女を弾いた。
ノクスも動けない。
エルも近付けない。
深層主の残した光が、
クロエだけを包んでいる。
その時。
声が聞こえた。
静かな声。
優しい声。
『忘れないで』
クロエの瞳が揺れる。
深層主。
もう姿はない。
だが。
確かにそこにいた。
『消えた世界も』
『失敗した可能性も』
『存在した』
青い光が揺れる。
『それだけで意味がある』
クロエは歯を食いしばる。
頭が割れそうだった。
それでも。
聞かなければならない。
『だから』
『覚えていて』
その瞬間。
最後の光が、
クロエの胸へ沈んだ。
静寂。
深層全体が止まる。
そして。
クロエの瞳が開く。
右は青。
左は紫。
その奥に。
深い群青が灯っていた。
エルが息を呑む。
「継承完了……」
クロエ。
「……何が」
ノクスが苦笑する。
「おめでとう」
クロエ。
「だから何が!」
ノクスは空を見上げた。
もう深層主はいない。
代わりに。
無数の観測線が、
クロエを中心に集まっていた。
「お前」
静かに言う。
「観測深層の管理者になったぞ」
空気が止まる。
クロエ。
「……は?」
その瞬間。
深層全体が震えた。
轟音。
空が割れる。
三本の“指”。
さらに奥。
裂け目の向こう。
巨大な影が、
少しだけ近付いていた。
セレナの顔色が変わる。
エルのノイズが揺れる。
ノクスの笑みが消える。
そして。
クロエの胸の奥で。
新しく生まれた力が、
警鐘を鳴らした。
——逃げろ。
それは初めて。
観測深層そのものが発した、
明確な意思だった。
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