第10話:観測固定
青白い光が、深層全体へ広がる。
静寂。
さっきまで暴れていたノイズが、一瞬だけ止まった。
エルの輪郭が安定する。
崩壊が、止まっていた。
エル自身が、信じられない顔をする。
「……なぜ」
クロエは、手を離さない。
黒翼が静かに揺れる。
「知らねぇよ」
息を切らしながら笑う。
「でも」
青と紫の瞳が、真っ直ぐエルを見る。
「お前、消えたくないんだろ」
その瞬間。
エルのノイズが、大きく揺れた。
感情。
観測側には不要だったもの。
それが今、確かに存在している。
セレナが呟く。
「固定観測……」
白銀の翼へ、黒いノイズが走る。
だが。
彼女の表情には、微かな安堵があった。
ノクスが苦笑する。
「マジかよ」
「クロエ、お前……」
「存在そのもの繋ぎ止めてるぞ」
クロエ。
「だから意味分かんねぇって!」
その時。
深層主が、ゆっくりこちらを見た。
巨大な青い瞳。
その奥で、無数の記録が流れている。
すると。
深層主の周囲に、光の輪が浮かび上がった。
観測線。
星図。
古い言語。
エルの瞳が揺れる。
「……記録層」
クロエ。
「今度は何だ!」
エルは、空を見上げたまま呟く。
「深層主が、何かを保存している」
次の瞬間。
深層主の瞳から、青い光が溢れた。
空間投影。
映し出される。
古い世界。
白い塔。
崩壊する空。
そして。
“黒い海”へ沈む、巨大都市。
クロエの呼吸が止まる。
そこにいた。
黒髪ボブの少女。
銀髪の少年。
銀髪の少女。
クロエ達に、似ている。
いや。
違う。
“同じ”だ。
セレナの顔色が変わる。
「……まさか」
映像の中で。
黒い空が裂ける。
“白い指”が、世界へ降りる。
そして。
全てが、飲み込まれた。
ノイズ。
崩壊。
観測消失。
最後に。
映像の中の“クロエ”が、こちらを見る。
そして。
静かに口を動かした。
『次は、失敗しないで』
空気が凍る。
クロエの瞳が揺れる。
その瞬間。
深層の奥から、三本目の“指”が現れた。
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