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黒翼契約譚《レイヴン・クロニクル》 ~終わりを選び、未来を奪い返せ~  作者:
観測深層 ― 忘れられた可能性

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第9話:繋ぎ止める者

エルの指先が、微かに震えていた。


崩れていく。


白い肌が、青い粒子へ変わっていく。


クロエは、その手を掴んだ。


強く。


消えないように。


エルの瞳が揺れる。


「……クロエ」


クロエ。

「喋んな」


震える声。


「消えるなよ」


深層全体が軋む。


巨大な“指”が、さらに境界を押し広げていた。


空が裂ける。


黒が広がる。


存在が、薄くなる。


セレナが翼を広げた。


白銀だった羽へ、黒いノイズが侵食していく。


それでも。


彼女は前へ出る。


「これ以上、侵入させない」


深層主が咆哮する。


巨大な腕。


“指”へ叩きつける。


衝突。


空間が砕け散る。


だが。


止まらない。


“外側”が、ゆっくり世界を侵食していく。


ノクスが空を睨む。


「マズいな」


クロエ。

「何が!」


ノクスは舌打ちした。


「観測そのものが喰われ始めてる」


クロエ。

「は?」


エルが、静かに呟く。


「存在固定率、低下」


「このままでは、世界境界が消失する」


クロエ。

「だから分かんねぇって!!」


その瞬間。


水面へ、無数の顔が浮かんだ。


“別のクロエ”達。


泣いている。


笑っている。


壊れている。


全員が、クロエを見ていた。


『覚えて』


『消さないで』


『私達を』


クロエの呼吸が止まる。


頭が痛い。


ノイズ。


記録。


感情。


知らない人生。


知らない終わり。


全部、流れ込んでくる。


クロエが膝をついた。


「っ……ぁ……!」


エルが、崩れかけた身体で手を伸ばす。


「見るな」


初めてだった。


命令でも、


観測でもない。


感情だった。


クロエの瞳が揺れる。


エル。

「お前が壊れる」


その瞬間。


クロエの中で、何かが止まった。


静寂。


そして。


クロエは、ゆっくりエルを見る。


青と紫の瞳。


まっすぐ。


「……じゃあ」


黒翼が、静かに広がる。


「お前だけ見る」


空気が止まる。


エルのノイズが、一瞬だけ弱まった。


存在が、安定する。


セレナの瞳が大きく揺れる。


ノクスも息を呑む。


エル自身が、一番驚いていた。


「固定観測……?」


その瞬間。


深層全体へ、青白い光が走った。

読んでいただきありがとうございます!


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