第5話:開かれた扉
巨大な扉だった。
深層主の背後。
深い青の空間を裂くように、
ゆっくり開いていく。
内側は見えない。
暗い。
だが。
“何か”がいる。
クロエは息を呑む。
本能が警告していた。
見てはいけない。
近づいてはいけない。
あそこは、
世界の外側に近すぎる。
セレナが低く呟く。
「……空間構造が違う」
白銀の羽が、
微かに軋む。
エルの輪郭にも、
激しいノイズが走っていた。
「深層境界、
崩壊開始」
「観測圏が重なる」
クロエ。
「だから分かんねぇって!」
ノクスが珍しく真面目な顔をする。
「簡単に言うと」
黒羽を広げた。
「向こう側が、
こっち見つけた」
空気が凍る。
その瞬間。
扉の奥で、
“目”が開いた。
クロエの背筋が凍る。
違う。
今までの巨大な目とは、
比べ物にならない。
もっと深い。
もっと古い。
世界そのものみたいな視線。
見られた瞬間。
クロエの頭へ、
大量の記録が流れ込む。
知らない世界。
知らない空。
滅んだ文明。
崩壊した月。
そして。
無数のクロエ。
笑っている。
泣いている。
死んでいる。
全部、
可能性。
クロエが叫ぶ。
「うあぁぁぁ!!」
黒翼が暴走する。
紫黒のノイズが、
空間へ広がった。
すると。
深層主が、
ゆっくり動く。
巨大な腕。
海の底から現れるように、
クロエへ伸びた。
セレナが即座に前へ出る。
「触れるな!!」
白銀の光が走る。
だが。
深層主は止まらない。
ノクスが舌打ちした。
「チッ……!」
その瞬間。
“観測されなかったクロエ”が、
クロエの前へ立つ。
深層主の腕が止まった。
静寂。
すると。
“クロエ”が、
静かに呟く。
『……思い出した』
クロエが顔を上げる。
「何をだよ」
“クロエ”は、
ゆっくりこちらを見る。
黒い瞳。
その奥に、
微かな悲しみがあった。
『私は』
『ここで、
消された』
読んでいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
引き続き「レイヴンクロニクル」をよろしくお願いします!




