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魔法が全く使えない「言語学者」、異世界の古代語を解読したら全ての呪文の"誤訳"に気づいてしまった  作者: なは
第3章:学院武闘祭

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火と氷

 準決勝。


 エルネスト・ラング/ティア・ノーヴァシルド対レオンハルト・フラム/クラウス・ベルガー。


 闘技場の観客席は満員だった。


 E判定の「図書館の虫」が予選を全勝し、本戦でも複文構造詠唱という前代未聞の技術を披露して勝ち上がってきた。学院中が注目する一戦。


 レオンハルトは闘技場の反対側に立っていた。深紅のローブが風に揺れる。パートナーのクラウス・ベルガーは長身で寡黙な二年生。風属性のB判定。レオンハルトの火力を風で強化する典型的な火風コンビだ。


「始め!」


 レオンハルトが動いた。


 だが——予想と違った。


 火弾ではなく、足元に炎を纏った接近戦。レオンハルトの足が高温の炎で包まれ、地面を蹴って高速で突進してくる。


「近接!?」


 エルネストは驚いた。レオンハルトは遠距離砲撃型だったはずだ。


「焼け足よ地を——疾く!」


 VSO語順の、修正版火属性加速呪文。


 足に炎を纏い、炎の爆発的膨張で推進力を得る。火属性の修正版を、移動手段に転用していた。


 一瞬でティアの至近距離に詰め寄る。


「ティア、後ろ!」


 ティアが後退しながら水の盾を展開した。だがレオンハルトは盾を殴りに来たのではない。


「焼け焼け焼け——」


 省略詠唱の超連射。至近距離での小型火弾の制圧射撃。一発一発は弱いが、至近距離で回避が効かない。


 同時にクラウス・ベルガーが後方から風を送る。


「纏え風よ火に——」


 風が火弾に加速を与え、水の盾を蒸発させようとする。


「氷! 完了!」


 エルネストの指示。


 ティアが詠唱を切り替えた。


凍りたれ(アル・フリエス)水よ——凍りたれ(アル・フリエス)!」


 完了相の氷。水の盾が瞬時に凍結し、氷の盾に変わった。


 レオンハルトの火弾が氷盾に当たる。表面が溶けるが——完了相の因果確定が働き、溶けた瞬間に再凍結する。


「——何だこれは」


 レオンハルトが呟いた。


「溶けてもすぐ凍る……。完了相を防御に使っているのか。『すでに凍った』と因果確定することで、溶ける前のステートに常に戻す——」


 分析が速い。さすがはレオンハルトだ。


 レオンハルトが後退した。至近距離の制圧射撃では氷盾を崩せないと判断したのだ。


「クラウス、切り替えろ。風壁」


 クラウス・ベルガーが風の防御壁を展開。レオンハルトが壁の背後に下がる。


 一瞬の膠着状態。


 エルネストはその間に思考を加速させた。


(レオンハルトは最初の突進で、こちらの新しい防御——氷盾——のデータを取った。あいつは馬鹿じゃない。氷盾の弱点を探すために、あえて至近距離で色々な角度から火弾を当てていた。研究者じゃないが、戦闘の中で仮説と検証をやる天性の才能がある)


「ティア、レオンハルトは氷盾の弱点に気づいたかもしれない」


「弱点、ですか?」


「完了相の再凍結は因果確定だが、因果確定には微量だが魔力コストがかかる。溶けて凍るを繰り返せば、少しずつ魔力を削られる。長期戦に持ち込まれると——」


「消耗戦……」


「ああ。C判定のティアの魔力ではB判定のレオンハルトの火力に耐え続けられない。あいつはそこに気づく」


 案の定——レオンハルトが風壁の向こうから声を上げた。


「エルネスト。面白い防御だな。だが——あの氷盾、無限じゃないだろう?」


「……否定はしない」


「正直な奴だ。じゃあ時間をかけさせてもらう」


 レオンハルトの戦術が切り替わった。


 遠距離からの大型火球。一発一発が大きく、氷盾に当たるたびに大量の蒸気が上がる。溶ける量が増えれば再凍結のコストも増える。


 同時にクラウスの風が熱風に変わり、氷盾全体の温度を上げようとしてくる。


 ティアの表情が険しくなった。


「エルネスト……魔力が——」


「分かっている。このままでは三分で限界だ」


 エルネストはノートを閉じた。


(消耗戦は不利。攻めるしかない。だが複文構造で攻防同時発動しても、レオンハルトとクラウスの二人同時に倒すのは難しい。——一人ずつ落とすしかない)


「ティア。クラウスを先に落とす。風支援を封じれば、レオンハルトの火力は単純な方程式になる」


「どうやって?」


「複文構造で攻防同時——だが攻撃の対象をクラウスに絞る。レオンハルトの火球は氷盾で受ける。その間にクラウスを仕留める」


「了解——」


「コンプレックス。全力で!」


 ティアの詠唱が響いた。


凍りたれ(アル・フリエス)水の盾——在つたり(ザイン)——穿ちたれ(アル・ヴァドゥ)氷の槍、貫け風の使い手を!」


 複文構造。氷の盾を維持しながら、攻撃の氷の槍をクラウスに向けて放つ。


 レオンハルトの火球が前方から迫るが、氷盾がそれを受け止め——再凍結。


 同時に、氷の槍がクラウスに向けて飛翔した。


「くっ——」


 クラウスが風壁で防御。だが氷の槍は完了相——風壁を貫通して彼の腹部を打った。


 クラウスが吹き飛ばされる。


「クラウス!」


 レオンハルトが叫んだ。


 だがクラウスはまだ場内にいた。ぎりぎりで踏みとどまり、再び風壁を張る。


「……まだだ。まだやれる」


 硬い意志。レオンハルトのパートナーとして選ばれただけのことはある。


 エルネストは冷静に判断した。


(一発では落とせなかった。ティアの魔力が足りない。C判定の攻撃ではB判定の体力を一発で奪えない。——だが)


「もう一度!」


穿ちたれ(アル・ヴァドゥ)氷の槍——在つたり(ザイン)——凍りたれ(アル・フリエス)水の盾!」


 二度目の複文構造。今度は攻撃を主文に、防御を従属節にした逆構成。攻撃に魔力を多く配分する。


 氷の槍がクラウスに再び飛ぶ。


 同時にレオンハルトが動いた。


 ——クラウスの前に立ちはだかった。


「俺のパートナーに——二度は通さん!」


 レオンハルトが手のひらを前に出し、火属性の修正版防御呪文を唱えた。


守りたれ(アル・ヴェール)炎の壁!」


 完了相の——火属性防御呪文。


 氷の槍が炎の壁にぶつかった。火と氷が衝突し、大量の蒸気が噴き上がる。


 そして——氷の槍が溶けた。


「完了相を——使った!?」


 エルネストが息を呑んだ。


 レオンハルトが完了相の防御呪文を使った。パターン類推で作った修正版だが、完了相の因果確定は機能している。「すでに守った」という完了形の防御は、ティアの完了相攻撃と同等の文法強度を持つ。


「言ったろう。俺にも三ヶ月間があったと」


 レオンハルトが唇の端で笑った。


「お前の技術を完全に理解しているわけじゃない。だが——完了相だけは、徹底的に練り込んだ」


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