情報は新聞か会話か
食事にかぶりつきながらもヴィルヘルムは色々と聞いていた。
平民の目線が珍しかったのもあるのだろう。そういえばララは時事には疎かった。
それよりも新しいデザインをメモしていたり、メモ帳に絵を書いて新しく出すデザインだとか言っていた。
平民もそれぞれなのか。
「最近の情勢はどうだろうか。いろいろあっただろうし」
「そうですね。戦勝は戦勝で嬉しいですね。オーランデルクが滅んだことはやはり喜ばしいことですし」
「第2王子よりは低い」
「ええ、それでも嬉しくはありますよ。あの連中がどれだけ高圧的だったか。料金を払うだけ第2王子より増しでしたが値切り方が最悪で有名ででしたから。まさか下回る人間が自国にいるとは思いませんでしたけど」
「見たことが?」
「いえ、私は店を持っていませんから。働いてた店に来ることもなかったですよ。来ていたらもっと早く職を失ったでしょう」
給仕は軽く笑いながら答えていた。
ヴィルヘルムは辞めた理由を聞くべきかどうか悩み、辞めた。
「いろいろなことが起きすぎて私は把握できていない」
「ええ、王都に住んでいる私ですらそうですから」
自分もそうだと言いたいくらいだった。ただ住んでるのは王都の真ん中である。
本当に住んでいるだけとしかいいようがないのがヴィルヘルムだが。
「ロバツの決戦と勝利は?」
「ああ、知ってはいる。詳しいことはわからないが……エセルの軍を撃破したと」
「ええ、王太女殿下らの軍が王国軍を介入させず2倍以上のロバツ軍を撃破して国王になっていたエセルと名将ハーンを捕らえて他の将軍たちを敗死させたのです。あのキサルピナ騎士長が最終日に増援としてやってきて一気に形を付けたと。まさに国家の宝ですね」
「ああ、キサルピナ騎士長か」
貴族も騎士も平民も好きだな。
あの女の恐ろしさを知らんのか?
ヴィルヘルムはそんなことを思ったが王都武道会・騎士武闘会・軍武闘会で長年ずっと優勝してるのだから知らぬはずがない、かかわらないからこそかと思い直していた。
それならば仕方がない。
外から見る分にはそういものだ。
外から見てもなかから見ても不評であるヴィルヘルムに言われたとなればキサルピナも嫌な気分にはなっただろう。
それでもあれは病人であるからと流しただろうが。
「どれか大会をご覧になりましたか?長年やっていたのでどれかは見たことがあるのでは?」
「ああ……アレクサンダー伯爵夫が負けた戦いを見たことがある」
「軍武闘会ですね、いつ頃のでしょうか?」
すっとでてきたことにヴィルヘルムは多少驚いたが、彼が軍人であることくらいは知っているのかと思い、いつ頃だったかを思い返していた。
兄と見に行ったような気もするし、一人で見に行ったような気もする。仕事としていったような記憶もあった。
「5,6年前だったかな」
「ああ、アレクサンダー伯爵夫が一番いい勝負をしていた頃のですね。あれ以降は一撃で負けたり棄権したり……情けないことですな」
誰だってあんなやつと戦いたくはないだろう。
あれで怪我をして退役したらそれこそ何をやっているのかわからない。
そんなことで引退されたらアレクサンダー女伯爵のほうが激怒するだろう。
「キサルピナ騎士長も勝者の一言で自分より強い方がいると言ってましたが一体誰だったのでしょうね?エセル王だったのでしょうか」
「いるのか?そんな人間」
訝しげに尋ねたヴィルヘルムに給仕は楽しそうに答えていた。
「本人が言ってるのですからいらっしゃるでしょう。バルカレス男爵もあっさり負けてましたし、誰だったのでしょうね?」
「さぁ……。アーデルハイド嬢だったかもな」
ヴィルヘルムはキサルピナに勝てそうな人間を浮かべるとまっさきに自分の初恋の人間を思い出していた。
「それは数年前の王都武闘会で否定してましたね。うーん、誰だったのでしょう」
ならもう浮かぶのは一人だけだろう。
ヴィルヘルムは簡単な答えのように言った。
不本意で、とても、とても嫌そうではあったが。
「王太女殿下ではないか?」
「ああ、なるほど。忠誠を誓った相手には勝てませんね」
ああ、そういう考え方もあったか。
昔の自分であればその理論で無敵と言い張りそうなものだったが、忠誠を誓っているだろう近衛にも見放されたのでヴィルヘルムはその点を失念していた。
前日の夢のせいもあったのかも知れない。
「案外戦えるからな、もしかしたら実力で上回ってるかも知れないぞ」
「確かに演劇での動きはすごかったですね」
「演劇?」
ヴィルヘルムは何のことだと続きを目線で給仕に訴えかけた。
「王太女殿下は劇団で女優として活動もしていますから」
「そんなこともしていたのか」
「ご存知なかったのですか?あまり演劇は……。ああ、確かに必ずしも出演してるわけでもありませんし、5,6年前ならたしかにわからないかも知れませんね」
先程の会話で5,6年は帝都にいなかったと判断した給仕は納得したように頷いていた。
「おや?そうなるとなぜ王太女殿下が戦えると思ったのですか?」
「ああ……そうだな……一応見たことがあったからだ……」
「実戦形式ですか?」
「そうだな、決闘だった。見たことがある」
決闘相手として、昨日。
その言葉は流石に言えずに歯切れが悪くヴィルヘルムは答えていた。
見物人A「またアレクサンダーのおっさんが棄権を選んだな」
見物人B「前は全知一ヶ月だったからな。仕方ない」




