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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
幽霊屋敷の廃王子

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朝の新聞

 部屋に戻ったヴィルヘルムは、周りを見渡した。

 やはり燭台は見当たらない。

 パジャマを着替えようかと思うもののそういえば洗濯はどうするのかとの疑問がよぎった。

 最悪の場合は自分でやることになるだろうな。


 すでにキサルピナの温情もあって、昨日のうちにヴィルヘルムは病人として療養所で生活をするように扱うことになったため、洗濯に関しても誰かがやることは決まっているだろう。

 毎日か、それとも数日に1回かまではわからないが。

 ヴィルヘルムは不安そうであったがおそらく考えるほどのことはない。

 彼は彼が思う通り牢獄の住人である。

 最も扱いは精神病患者のようなものであるが。


 着替えるかどうかですら悩んだヴィルヘルムは、結局着替えないことにした。

 昨日脱いだ服はソファに乱雑に置かれていた。

 さて、どうするべきかと考えながらベッドに腰掛けていた。


 ぼうっとしているヴィルヘルムの意識を現実に戻したのはノックの音であった。


「なにか?」

「新聞が届きましたよ。よかったですね一番売れてる王都新聞です」

「入ってくれ」


 近衛騎士は笑顔で王都新聞を片手に持ちながら入室した。

 ヴィルヘルムは知る由もないが、エリーゼ、アーデルハイド、フリードリヒが法律とエリーの蛮族領域での利益をこねくり回し設立した新聞社であった。

 後々ほかの友人も参加して、新会社も競争を煽るために設立して互いに競い合っているが、今となってはすべてエリーゼの懐に入るだけの茶番である。

 マッセマー商会は、特に商会長はこれに乗り遅れたためこの点では非常に影響力が少ない。

 広告を出してなんとか言っての動きにするのがやっとである。

 王都のアホどもに日々の出来事を描いても噂でおわりや、とのことでシャーリーも追随した。

 結果、途中で大慌てで参加したためシャーリーは利益配分が極めて少ない状態に陥り、そもそも利益配分に預かれないマッセマー商会長はこれ以降は失敗しても青田を買うという勝負精神を発揮していた。

 なお新聞の売り上げにはキサルピナの活躍と付随する挿絵が影響があったのでレズリー伯爵夫人の手元には莫大な金額が流れ込んでいる。

 エリーゼの民意を操ることこそが平民の反乱回避や破滅回避の第一手であるとのことはフリードリヒによくよく理解され、その理解にアーデルハイドがひどく嫉妬した。

 互いに腹の中は違うだろうが、少なくともこの3人はよく手を取り合っていた。

 あるいは、エリーゼが王太子妃になればこのような迂遠な計画はいらなかったかも知れない。

 3人がそれぞれ持つ友情と愛情と妥協と、ほんの少しの連帯感。

 破綻しなければどうなっていたことか、あるいはヴィルヘルム次第であったのかも知れないのだが……エリーゼからしたら絶対に拒否だっただろう。

 水と油で馬が合わなければ見てる方向も違う、同じことは互いにこいつは別に死んでもいいと思っていたことくらいである。

 そんな死んでほしい相手が作って、時には記事を寄稿してる新聞を牢獄の唯一の癒しになるだろうと思ったヴィルヘルムは上機嫌で受け取った。


「ああ、これが楽しみだった。いっそ本でも買おうかと思うくらいだ」

「銀貨の10枚もあれば本は買えましょう。まぁ売りに来る人間がいないかも知れませんが」

「困ったものだ。この際安い本を買ってきてもらうべきかもしれんな」


 この報告は朝食前の忙しい中でエリーゼに上げられ、キサルピナと顔を見合わせた際に療養所にも本はありますからねの一言で許可された。

 ただし、新聞はまだしも本まで無料にするのは値段の高いものを調子に乗って請求してくるから自腹購入だけは維持しなさいと命令された。

 キサルピナも大量に官能小説を要求するヴィルヘルムが容易に想像できたためあっさり納得して受け入れた。

 どうせ金貨10枚を無駄遣いするに決まっている。

 ほんの数冊程度会に行くのも仕事のウチで構うまい。

 買い物ついででいいでしょう。

 その程度の軽い会話で決まっていた。

 もはやヴィルヘルムがどうなろうと何も起きないことを確信してるからこそであった。


「どうぞ」


 薄い笑いを浮かべて新聞を差し出す近衛騎士に疑問を感じたが、おそらく自分を小馬鹿にしてるんだろうと判断し、新聞を受け取った。

 この薄笑いの意味がわかったのは新聞の見出しを見た瞬間であった。


『国家の癌、王族の権利を失う!廃王子に!』


 間違いなく自分のことである。

 ヴィルヘルムをしてそう認識せざるを得ない文字が並んでいた。

 王族の権利を失った廃王子は自分しかないのだから。


「…………ビッグニュースだな」


 そう強がりながらも、どこかで解放された気分を味わっていた。


「ええ、そうですね。その記事は……」


 話しかけてきた近衛の会話が止まるとヴィルヘルムは訝しげに新聞から顔を上げた。


「どうした?」

「首の周りが変な色になってますね?かぶれですか?性病であればこちらにできることはありません。貰った金貨の範囲でどうにかして下さい。別の理由でしたら対応なさると思いますが」

「私の首はどうなっているのだ?」

「青い痣ができております。首でも絞められましたか?」


 悪夢を思い出したヴィルヘルムは昨日の新聞が机にあることを確認して安堵していた。


「わからないが、かぶれであれば薬がもらえるのか?」

「埃に弱い方もいらっしゃいますからね。本当にかぶれであれば塗る薬はもらえるでしょう。それでは失礼します」


 記事に関して何か言おうとしていた近衛騎士は興が削がれたようにそそくさと立ち去っていた。

 ヴィルヘルムに首を絞められたかと尋ねた際の反応で何かを察したようでもあった。

 知らぬはヴィルヘルムばかりであった。

新聞社「ようやくか、そのうち死ぬんだろうな」

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