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第19話:混乱の王都、覚醒の時

第19話です。



 国王選挙まで1週間となった休日の王都は、混乱を極めていた。


 メーレス王女がフール王子の暗殺未遂で逮捕されたかと思えば、たった2日で釈放され、騎士団の内部情報が新聞で報じられ、数々の不正と今回メーレス王女を収監するにあたって行った非道な行為が全て明るみに出てしまったのである。


 国民からすれば、もはや誰を信じるべきなのか全く分からない状況だった。


「カイン王子、説明を!」

「一体何が起こっているのですか!」


 カイン王子の演説会場でも、その混乱は収まることを知らない。


 そして、おまけと言わんばかりに、先日第二王子ズィガが選挙から撤退することを発表したのである。

「俺は元々王には興味ないからな。俺の票もくれてやるよ、英雄様。ちゃんと奪ってみろや」

 彼は俺にそう言った。



「……もはや、世論調査などあてにならないだろうな」

「本当に、この国を壊せそうだね、平くんなら」

「そのつもりはないが……」


 平と雪は、演説会場の裏手でカイン王子を見守っていた。


「騎士団の票をある程度崩せたから、結果的には悪くない。もうここまで来たら、壊すのもいいかもしれない」

「平くんが本気出したら、皆を洗脳して選挙を終わらせることだってできるでしょ?でもやらない」

「中途半端だが、俺は政治の専門家じゃない。カイン王子には許してほしいところだ」


 平は、自身の計画性のなさにうんざりしていた。そもそもの前提があやふやなせいで、その場その場で態度を変えることになる。


「後は正直、カイン王子のアピール次第だ。もちろん、公平な投票が行われるように俺も動くが」


 平の今一番警戒していることは、フールが国家警察を悪用することだった。残り少ない期間でカインを妨害することや(あまり表立ったことをし過ぎると支持に影響するが)、最悪なのは当日の選挙結果を操作することだ。


「選挙があるとは言っても、所詮は独裁国家だからな。権力者が勝つようにすることは簡単だ」


 この国の民は、自ら自分たちを縛る独裁者を選ぶことになる。本当におかしな話だ。




     ***




 時間はあっという間に過ぎていく。カイン王子とフールは双方激しくぶつかり合った。

 世論調査の結果は各世論調査でバラバラだった。無党派層が大量発生したことで当日の投票まで全く結果は分からない状況になっていた。


 俺は、英雄の名を借りてカイン王子を支援することはなかった。あくまで、一人の有権者として、彼を見守った。


 もちろん、フールのやってきたことを情報として伝えることは怠らない。そして、国家警察がカイン王子の妨害をしようと何度か強硬手段に出たので、事前に潰した。




 残り3日となった今日は、カイン王子とフールによる一対一の討論会の日だった。


「無理せず、落ち着いてやってくださいね」

「分かりました。頑張ります!」


 カイン王子はこの選挙期間中に見違えるように成長した。俺のようなたかが18程度の若造が偉そうなことを言っているように聞こえるかもしれないが、これは事実だ。彼の能力は、今まさに最大限発揮されようとしている。


「カイン。こうやって面と向かって話すのは久しいな」

「フール、貴方は危険です。貴方を王にするわけにはいかない」

「ほう、随分と良い目をするようになったじゃないか」


 カイン王子と会話しているフールには、明らかに余裕があった。


「……」


 2人が壇上に上がった。

 中央広場に集まった千人を超える聴衆たちは、2人の細かいしぐさにまで目を奪われる。



「──それでは、フール第一王子とカイン第三王子による公開討論会を開催します」


 司会の合図とともに、会場が沸いた。

 二人は、軽い自己紹介をした後、司会に従って討論を始める。


「──」

「──!」


 司会の合図で、初めに国民が今一番興味のあること──それぞれの疑惑についての説明があった。


 フールの発言は、商会との癒着・人身売買への協力の疑惑について、証拠がなく、自分は全く知らなかったというスタンスを反映しているものだった。また、自身の今までの功績を強調した。国家警察や騎士団による治安維持を徹底して行ってきたことなどの実績や、学問の優秀さ、魔術の優秀さ、王としての資質などがカイン王子よりも明らかに優れていると断言した。


「──このように、私はそのカインよりも王に相応しい、ということは分かってもらえるでしょう」

「……」

「そして彼は、調査によれば私を暗殺しようとしていた人間に支援されているようじゃないか。騎士団を乗っ取り、彼はこの国を強制的に自らのものにしようとしたのではないか!?」


 フールは、いつにも増して感情をこめて聴衆たちに語りかける。

 人の心を掌握するという点において、彼のカリスマ性は疑いようがなかった。


「……話は終わりですか?」

「何だと?」


 だが、フールに対するカインもまた、別のベクトルの凄みを醸し出していた。

 カインは、フールの大演説に動じることなく、ゆっくりと、丁寧に話し始めた。


「皆さん、聞いてください」


 落ち着きつつも堂々とした話し方は、14歳のそれではない。


「フールのやってきたことを。そして、私が描けるこれからのことを」




──カイン王子の言葉は、人々の心の奥底に、奇妙なほどに入り込んでいった。


「なるほど……」

俺はカイン王子の覚悟を見て驚いた。

 彼は、自力で『才能』を開花したようだ。

「もしかしたら、本当の脅威はフールではないのかもしれないな」

 彼が本気を出して動けば、フールをはるかに上回る大悪人にもなれるだろう。

 しかし、だからこそ、彼の白く輝く魂が美しく、尊いものに感じられる。


「──以上です」

「……そ、それでは、次の議題に行きたいと思います……」


 約2時間の公開討論、結果は奇妙なものになった。

 フールの『犠牲の支配者の力』と、カインのまだ知られぬ『力』が拮抗し、民衆の迷いが一層増すことになったのである。


-第19話 完-

お読みいただきありがとうございます。

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