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第18話:破壊者

第18話です。



 メーレスの逮捕から2日目の朝。投票まではあと9日。もう時間はない。


「支持率、結構落ちてるね」

「そうだな」


 暗殺未遂の容疑は、カイン王子の支持にもかなりの影響を与えているのは間違いなかった。一応メーレスが全て罪を引き受けたため、カイン王子に直接の非難が行くことは少ないが、それでも信用度は一気に低下している。

 ただ、幸いにもフールにもスキャンダルがあったため『まだ決めていない』と答える人の増加が目立つ。


「このままいけば固定票の比較的多いフールの当選で決まりだろうな」

「そっかー」


 雪さんの声には、明らかに余裕があった。


「雪さん、意外と軽いな」

「え?だって平くんが全然重そうじゃないし」


 雪さんは、不思議そうに俺を見ていた。

 そうか、俺は意外と顔に出ているのか。


「そうだな。割と何とかなりそうだ」

「もう動いてるんでしょ?」

「ああ。数時間後には、全て解決しているだろう」




     ***




「……あ……あ」

「しかし、まだ吐かないとはなぁ。思っていたよりもやるじゃねえか」

「……」


 監禁されて2日。

 私はもう、ほとんど意識を失っていた。


 きっと……もっと強い人間……ヨルカワ様のような人間なら、この程度何ともないのだろう。

 でも、私には耐えるのは無理らしい。

 体中をナイフで切り刻まれ、出血もひどい。

 もし仮に何かの間違いでここから解放されたとしても、もう元のように生活することはできないだろう。


 ああ、早く死んでしまいたい。

 せめて、カインに不都合な言葉を間違ってこぼす前に、命を失ってしまえば……。


「……っ」


 私は、自害しようと試みた。

 だが力を出そうとしても、なぜか体が動かない。


「おいおい。死ぬのはまだ早いぜぇ?」


 男の醜い笑顔が目に映った。

 どうやら、私は死ぬことも許されないらしい。



「さあ、もっと喚け──」

「邪魔する」

「あ?…………?」


「……え?」


 誰かの声が聞こえたと思えば、男はその場に倒れていた。


「メーレス王女、お待たせしました。『全て、準備ができましたよ』」

「ヨルカワ……様?」

「騎士団は現在カイン派の人間が掌握しました。残りのフール派は、騎士団長のみです。騎士団長も、雪さんに任せてありますから、すぐに退場することになるでしょう」


 ヨルカワ様は、よく分からないことを言った。

 騎士団を掌握した?どういうこと?


「私も『実力行使』をする覚悟ができました。健全な選挙を行わせるために。さぁ、行きましょう、王女」


「……で、ですが……こんなことをしたら、カインが……」


「心配はいりません。カイン王子に不都合なことが起こらないようにこの2日で準備をしたのですから」


 ヨルカワ様が私の拘束に触れた。

 すると、びくともしなかったはずの拘束が一瞬ではじけ飛ぶ。


「体の傷は全て治しましたよ。ちゃんと動けるはずです」

「え……?」


 私は、自分の体を見た。


「……」


 私の体には一切の傷すらなかった。ナイフで何回も削られた皮膚も、完全に元に戻っている。

 ヨルカワ様が回復魔法も得意であることは知っていたが、これは本当におかしい。通常魔法で傷を癒した場合多少元の状態とは違う状態で回復することがほとんどであるのに、体中の細かい部分まで、一切のぶれなく修復されていた。


 ただ、先ほどまでの怯えでなかなか足が前に出ない。


「少し心が滅入ってしまっているようですね。分かりました。少し失礼します」

「え、ちょ・・・・・!?」


 ヨルカワ様は、何故か私を抱っこした。

 私は別に軽くないのに、全く苦にしていない様子だ。


「だんだんと動けるようにはなっていきますから。それに、カイン王子の顔でも見れば安心すると思いますよ」


 そう言って、ヨルカワ様はまるで赤子を抱えるかのように私を抱っこしたままどんどん歩いていく。


 そして、牢屋がある地下を出た。




     ***




「さーて、と。騎士団長さんはどこかなー?」


 ふふふっ、と笑いながら、まだ十代の少女が冷たい石でできた廊下を行く。騎士団の中のフール派は、彼女の足跡に倒れている。


「……お?ここかな?」


 少女は、石造りの建物の中でも一番重厚な扉を見つける。少女は迷いなく、その扉を開けた。


「ちょっと重いかな?」


 物理的にも重い上、何重にも鍵がかかっていたはずの扉は、少女の細い腕によっていとも簡単に破られた。


「騎士団長さん、いる?」


「……やれやれ、やはりくるのか」


 部屋の中では、金髪の男が一人で珈琲を嗜んでいた。


「君が例の少女かい?その扉を無理やり開けるなんて、短気なガールだね?」


 男は20代中盤ほどで、筋肉はあるが比較的やせ型だった。

 彼がレスト王国の騎士団の頂点であり、フール派の筆頭だった。


「貴方が騎士団長であってる?悪いけど、あまり時間をかけたくないから」


「おやおや。本当に短気なことだが、まさか、君は僕に勝とうとしているのかい?」


「騎士団長であってるか聞いたんだけどな。でも、そのリアクションなら間違いないよね」

 少女は漸く役目を終えられると心の中で喜んでいた。


「……ん?というか、貴方私が挑戦者側だと思ってるの?」


「何?」


「貴方が私に勝てる要素なんてないと思うんだけどな……ま、いっか」


 少女は指先を騎士団長に向けた。


「ん?何のまねだ?」

「『延焼』」

「あ?……あ?ああああああああぁ!?」


 少女が指をさした後すぐに、男が叫びだした。

 男は体中を掻きむしりながら、床をのたうち回った。まるで、体を炎に包まれたかのように……。


「大丈夫。死なないようにしてあげたから」


 だが少女は、目の前に何もないかのように無表情だった。



 -第18話 完-

およみいただきありがとうございます。

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