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第19話:属性神派と英雄

 第19話です。





「……失敗したか。つくづく使えん娘だ」


 (おさむ)がいなくなった会議室内にて、1人の神官が教皇の前に立つと、そのまま少女の腹に蹴りを入れた。


「……う゛っ……おえ……」

 少女は腹を押さえ、その場に蹲った。


(奴は『また来る』と言っていたな。奴に洗脳の秘術が効かない以上迎え撃つ他ないが、私の存在が完全に把握されているのだとしたら厄介だな)


「……『立て』教皇よ。会議の続きだ」

「……あ……う……」


 神官は、蹲っていた教皇を無理やり席につかせ、形式だけの国家会議を始めた。




     ***




「教皇の右隣から2つ目の席に座っていた神官について、何か知っているか?」

「……えーと、確か…………あ、その人は『ホワイト』って名乗ってたはずよ。教会でも1番偉い神官の1人らしいわ」


 あの神官は見た感じ30代後半くらいの、痩せ型の男だ。

 特に見た目におかしな点はない。


「なるほど。他には何か情報はあるか?」

「うーん……ないわね。あの人、あんまり存在感なかったのよ。他の人──大臣とかみたいに怒鳴ったりはしなかったから……」


 前田さんは複雑な表情を浮かべた。色々と大変だったらしい。


(ここからどうするか)


 そのまま乗り込んでしまっても良いが、問題はその後だ。もし、この国が根本的にあの神官に操られていた場合、何か裏があることは間違いない。そう、例えば──この世界における『人類の敵』が関わっているとか。それならば、俺の役割は別のものになる。



「…………あ」

「ん、どうした?」

「そういえば、教会内部の人で、協力できる人がいるかも」

「というと?」

「なんか、教会の中に2つのグループみたいのがあるみたいで─────」


 毎回定例会議に参加した前田さん曰く、大臣や神官の中で明らかに避けられている人たちがいるという。


「その人たちを仲間にすることができれば」

「なるほど……」


 ただ、彼らが洗脳されていないとも限らない。ひとまず接触してみるか?




 ──その時、トントンと音が鳴った。



「……失礼します。ヨルカワ様にお客様です。エントランスに来てもらいたいとのことです」

「……?」


 ドアがノックされたようだ。

 ホテルのスタッフと見られる女が俺を呼んでいる。


「どなたか分かりますか?」

「大教会の神官の方のようです」


「……なるほど、それなら行きます」

「えっ?……(おさむ)君、ちょ、ちょっと、大丈夫なの!?」

「落ち着いてくれ。あんなことがあった後に、いきなり本人が来ることはないだろう。それに、俺は洗脳耐性があるからさほど問題はない」


 正直、『さほど』ではなく全く問題はないが。


「……わ、分かったわ……でも、私も行くわ」

「そうか、助かる」


 俺は前田さんと共に1階へと降りていった。


「……ふむ」


 ホテルのエントランスには、白を纏った神官らしき人物が3人と、スーツを纏った人物が5人いた。全員年齢も性別もバラバラだ。


「───おお、これは英雄様!おや……なんと、マエダ様もいらっしゃったのですか!私、大臣のマーチと申します」


 俺とその後ろにいた前田さんを見るや否や、男の1人がこちらへ向かってきた。


「あの人、恐らく対立してるグループの人よ。少なくとも、敵じゃなさそう」

「そうか」


 ひとまず様子を見るか。


「実はですね、我々、お二人にお話があるのです。2人が一緒にいるとは、運が良かった。よろしければ、すぐそこののレストランへ来ていただけるとありがたいです。あそこは個室があるようですので。予約済みです」

「……えっと……夜川君、どうする?」

「そういう事なら、行きますよ」

「ありがとうございます!」


 俺と前田さん、彼ら彼女らはレストランへ移動した。

 食事も全て用意してくれたらしい。

 これは、よほど俺たちを引き入れたい何かがあるのだろう。


 全員席に着いた。


「……で、話というのは?」

「うんうん」


「────単刀直入に言います。お二人に是非、我々と共に、教会の悪と戦って欲しいのです」


 話し始めたのは、先程マーチと名乗っていた男だ。


「ほう……」

 男は真剣な表情だ。嘘をついている気配はない。

 まさか向こうから来るとは。


「悪と、戦う?どういうことですか?」

「失礼、まずは我々の立場から説明させていただきます」


 男は語り出した。

 彼の話によると、彼らは教国大教会の中の『属性神派』というらしい。属性神派は、属性神を史上とし、教皇や教皇の派閥である『教皇派』に権力が集中することを防ぐためにできたとのことだ。


 今までは常に教皇派が優勢ではあったものの、属性神派がある程度のブレーキをかける状態が続いていた。

 だが最近、属性神派の人数の減少などによりこの天秤が急激に教皇派に傾いた上、教皇が暴走しだしたという。


 彼ら曰く最近の教皇は何かがおかしい、と。

 一見普通に見えて、よく観察すると体の動かし方が不安定だったり、言動が二転三転したりすることが特に増えた。

 彼女はまだ12歳であり、普通に考えればそれが自然のように見える。しかし、普段の彼女の子供とは思えない大人びた姿とは矛盾しており、やはり何か違和感があるのだとか。


「……そして、英雄の中でも特に聡明だと噂のヨルカワ様ならばもう分かっているかもしれませんが、我々の目的は教会の健全化だけではありません。この国の名ばかりの王である教皇様を、救うことこそが、属性神派の裏の目的なのです」


「名ばかりの王、というと?」

「はい。教皇というのは、代々この国では集められた魔力を保管しておく器に過ぎません。賢者であるヨルカワ様は気付いてらっしゃるはずです。教皇様は教皇派の言いなりでしかないことも」


「なるほど、話はある程度理解しました」

「……え!?……あ!り、り理解しました」


 ……前田さん?


「それで、皆さんはこれからどうするつもりなんでしょうか?」


 これが一番大事だ。


 万が一、この国が崩壊するようなことになっても困る。

 俺は教会の人間でもこの国の人間でもないから、どう変えるべきなのか、そして俺がどこまで関わるべきなのかは分からない。


「……言葉にすれば簡単です。我々はこれから、教皇派を相手取り、教皇様を解放します」


 解放……聞こえはいいが、それでどうする?

 教皇を俺が保護でもすれば、全て解決するのか?

 俺はその後のビジョンが聞きたい。


「教皇を解放することは自体は、()()()簡単です。なんなら私が保護しても良い。ただそれで、異世界の英雄をいきなり暗殺するような組織が変わるのでしょうか?」


「……もちろん、それだけでは変わらないでしょう。だからこそ、我々は教皇派の勢力を抑えなくてはならない」


「そのために、私と前田水樹に教皇派の人間を殺して欲しいと?」

 俺はあえて、きつめの言葉を浴びせた。


「それは…………」


「──ち、違うんです!!」


 だがその時、男の右隣に座っていた女の1人が割り込んできた。



 ―第19話 完―

 お読みいただきありがとうございます。

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