第16話:激化①
お久しぶりです。第16話です。
さて。
ランクS英雄である私、前田水樹は、異世界転移前は『よくいる女子高生』の1人だった。
私はこの異世界転移で、ランクS英雄を与えられたわけだが、実の所、何故私がランクSなのかはよく分からなかった。
私は同じくランクS英雄の高野英斗と幼馴染であるくらいで、他のランクS英雄とは今まで特に関わりはない。
勉学においては、もともと私は優秀ではなく、クラスでも真ん中より少し下程度。英斗はクラス内では比較的優秀な方だけど、それで目立つほどではなかった。
一方、他のランクS英雄は少し特殊で、全員が学年順位に載るほど優秀だ。親が勉強しろしろ言う割に頭が良くない私にとっては、羨ましい存在だったと思う。
また、運動に関しては私はそこそこできたが、ランクS全員とも得意不得意が違うので、やはり私との共通点は少ない。
ランクS英雄がどのような基準で選ばれたのかはいくら考えても分からないし、もうどうだって良いと思っていた。とにかく私は、早くこの世界を救って、元の世界に帰る術を見つけ、元の生活をみんなで送りたい。家族にだって、会いたい。
……だけど
(……異世界の英雄を認めているはずの属性神教会が、英雄を暗殺……しかも世界を守るのに絶対に必要なランクSの英雄をなんて……なんでこんなことに?)
クラスメート、しかも現在自分にかなり近い立場の人間が、暗殺されそうになっていることを、見過ごすことはできない。
それは私のためでもあった。
何故か漠然と、自身の死がよぎったのだ。
(……確かめなきゃ)
まず渦中の夜川君に話を聞かなければならない。
そもそも私には、彼が暗殺されるようなことをしたとは思えなかった。
夜川君の居場所を教えてもらうため、私は王女様へと通信魔法を繋げた。
***
「正直いつまでこの状況が続くのか分からないが、帰ったらよろしく頼む。魔道具も完成したから、これで連絡は取れるはずだ。何かあったら呼んでくれ」
「はい。頑張って下さいよ、平さん!」
「おう。じゃあ、またな」
俺はホテルへの帰り道、愛花たち3人とミルスさんたちは全員とも明日の朝早くの電車でハント王国へと帰るようで、またしばしの別れを告げた。
また会えるのはいつになるかは分からないが、早く脅威を取り除いて会いたいところだ。
さて。
皆と別れた後、俺はホテルの自室にて『ある研究』を行っていた。
「……なるほど、空間を1つの座標にまとめれば、魔法理論上は可能なのか」
『ある研究』。それは、俺たちが元の世界へと帰還する方法の研究である。
俺はこの世界に来てから(もっと言えば魔術学校に勤務するようになってから)毎日夜になると自室で魔法の研究を進めていたのだが、だんだんと成果が出てきた。
この世界と元の世界を繋ぐ魔法は、この世界に召喚されたときに王女様が「現状50年で半分程度しか完成していない」と言っていたが、実は既に75%まで進んでいる。
ハント王国王城にて、戦闘職ではない異世界の英雄が研究を進めているのと、俺が夜に研究しては定期的に彼ら彼女らに情報提供をしているのが相まって、想定を遥かに超えるペースで研究が進んでいるのだ。
(……だが、これでは完成していない。肝心なパーツが何か足りない)
「……秋は大丈夫だろうか」
ふと、そんなことを呟いた。
この世界と元の世界の時間の流れが違うのかは分からないが、もし同じならもう数ヶ月も家にいないことになる。
妹の高校の学費や生活費、大学入学金などのお金は口座に入れておいたから問題はないと思うが、少し心配ではある。
ちなみに俺は高校生ではあったが、バイトだけではなくこっそり投資などもやっていたので、そこらの社会人よりはお金を持っていた。
「……さて、今日はこんなものか」
ペンを置くと、俺はベッドに横になった。
***
「──え、ヨルカワ様ですか?彼でしたら、ちょうど魔術学校の修学旅行の引率としてルーアに来ているようですよ。今ホテルの場所を送っておきますね。……でも急ですね、何かありましたか?」
「あ、いえ、何かあった訳ではないんですが……彼に聞きたいことがあったので」
あの後、私は王女様経由で夜川君の居場所を知ることに成功した。どうやら夜川君は偶然にもルーアに来ているようで、直接話ができそうだ。
「お忙しいところありがとうございました」
「いえいえ」
通信魔法を切る。
次の日、私は早速教えてもらったホテルへと向かった。
「……ここかー」
ホテルはここで間違いない。
随分と高級な感じのするホテルだった。
やはりエリートを輩出する魔術学校の修学旅行はお金がかかっているのかもしれない。
「すみません。オサム・ヨルカワに用があるんですが、今って部屋にいますか?」
「ここに泊まっていらっしゃる方のお知り合いですか?申し訳ありませんが、個人情報ですので言うことは……」
「あ、これ私の身分証です。あと、許可証もあります」
「…………っ!?失礼したしました。少々お待ちください」
私が王女様からデータを送ってもらった許可証と、魔術学校の職員であることが書かれた身分証を見せると、フロントマンは裏へと駆けていった。
「はい。オサム・ヨルカワさんですね。その方でしたら、現在外出中のようです。おそらく夕方には帰っていると思いますので、良ければ地下のレストランでお待ち下さい」
「あ、分かりました」
案内されたレストランで待つこと2時間ほど。
「……何かありましたか、前田さん?」
私の前に渦中の人物が現れた。
というか、何故敬語?
「久しぶり夜川君。王都にランクS英雄が集められた日以来ね。私の苗字をしっかり覚えてくれているとは思わなかったわ。あと、あんまり喋ったことなかったけど、敬語じゃなくて良いわよ」
夜川君は、はっとしたような顔をした。
「あ、すまない。普段魔術学校で敬語で喋ってるから、癖になっていた。それより、わざわざ俺のところに来るなんて、何かあったのか?」
「いや……それはこっちのセリフなんだけれど」
「?」
本人は何のことか分からない様子。まぁ、無理もないか。元の世界でしゃべったことあんまりないし。
「単刀直入に聞くけど、夜川君、あなた暗殺されかけたわよね?」
「……ああ、そのことか」
やはり暗殺未遂があったことは間違いないらしい。
「確かに、俺はここ最近命を狙われることが多かった。……しかし、誰から聞いたんだ?そのことは王女様しか知らないはずだが」
「そうね……悪いけれど、私についてきてもらえるかしら?」
「……ああ」
私はレストランからホテルの外へ出ると、そのまま路地裏へと夜川君を連れて行った。
「『空間作成』」
「……スキルか」
そして、スキル『空間作成』によって誰にも聞かれずに会話ができる空間を作り出した。
「……ここまでするということは、何か聞かれたらまずいことがあるのか?」
「ええ、そう。本題に入りましょう。まず誰から聞いたのか、だったわね」
私は意を決して口を開いた。
「私は貴方への暗殺は属性神教会が依頼したものだと、神官たちが言っているのを聞いてしまったの」
「…………なるほど。やはりか」
「知っていたの?」
「俺を殺しに来た暗殺者から聞いたからな」
暗殺者……犯罪者とはいえ気の毒にね。異世界の英雄じゃなかったら助かったかもしれないけど。
「じゃあ……なぜ属性神教会が世界の救済のための英雄を暗殺しようとしたのか、何か心当たりはない?」
これが私が1番聞きたかったことだ。
この返答次第では、私の属性神教への関わり方が大きく変わる。私だって本当は教会が暗殺なんてことを試みる集団だとは思いたくない。そもそも、あの温厚で頭の良い夜川君が暗殺されるようなことをしたとも思えない。
そんな私の心情など知るわけもなく、彼は告げる。
「……そうだな、結論から言えば───────
私はその答えを最後まで聞いて、絶句することになる。
―第16話 完―
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