第15話:火種
第15話です。
──属性神教大教会、定例会議にて。
「……?」
私、前田水樹は、今日もいつも通り大教会で定例会議に参加していたのだが──何故だが神官や大臣たちの様子がおかしいことに気づいた。
あいつらいつもあれだけ偉そうな態度で座っているのに、今日は余裕が全くない。
おまけに、もう定例会議の時間なのに、全員黙り込んでいて始まらない。
というか、いつもいる神官がいないし。
「……あの……いつも通り私から定期報告して良いでしょうか?」
このままでは埒があかない。
とっとと始めて欲しい。
教会は好きじゃない。
「……あ…………そ、そうですね。これより定例会議を始めたいと思います。み、ミズキさん、お願いします」
「あ、はい」
やっぱり様子がおかしい。いつも笑顔(?)の教皇様も元気がない。
……ほんと、なんなの?
「……報告します。現在観光シーズン真っ只中ですが、それによって人が増えたことにより窃盗や誘拐などの犯罪が増加していると、ギルドより連絡がありました。警備の人員を増やすべきかと思います」
ひとまず報告することは報告しておく。冒険者ギルドの人怖いから。
「……あ、それと」
一つ思い出した。これも言っておこう。
「高級ホテルに泊まっていた修学旅行生が失踪したという噂を耳にしたのですが、この噂について何かご存じでしょうか?」
…………?
「……どうかしましたか?」
部屋の中の空気が一層張り詰めた気がした。
そんな中、教皇様がはっと我に返ったように「……あ、いえっ、何もありません。考え事をしていまして、すみません」と言った。
「……そうですか?……分かりました」
その後、いつも通り報告が行われ、定例会議は終了した。
私は、部屋から退出した。
***
「──さ、て。神官よ、例の件は順調なのか?」
定例会議の後。
最重要幹部と教皇のみで行われる国家審議にて、大臣が1人の神官に話しかけた。
「ええ、もちろん。──教会は一切関わっていない、という事実が出来上がりつつありますよ」
神官は、そっけなく答えた。
「……そうか。ならそれで良い。教会が異世界の英雄を暗殺しようしたなんてことが知られたら、ハント王国がどう動くか……恐ろしくてたまらんわ」
「……まぁ、貴方達が初めからこんなことをしなければ済んだ話ですが」
神官は小声で呟いたが、大臣は聞き取れなかった。
「今何か言ったか?」
「いえ、何も」
2人の会話は外には決して漏れないように防音されていた。
それゆえ、国家審議に参加していた者は誰一人として、その会話を盗み聞きしている者の存在に気が付かなかったのだ。
***
「……なぁ。なんか近くないか?愛花。」
「そうですか?」
「いや、気のせいか……?」
神殿を回った俺たちは、外にあるカフェテリアにて雑談をしていた。
長めのテーブル席に俺と愛花とミルスさん、そして龍太郎と委員長とルック・リーフがそれぞれ並んで座っているのだが……ソファーは横にスペースが余っているのだが、俺とやたらと近い位置に愛花が座っているので若干困惑してしまった。
「……まぁそれはさておき、皆んな元気そうで何よりだ。もう何年も会ってなかったような気がした」
「そうですね。まさか夜川君が学校の先生をやっているとは思いませんでした」
委員長が俺の衣装を指差した。
「……まぁ、俺は色々と問題ばかり起こしてるしな」
「えっ、問題?平さんがですか?」
愛花が何故か驚いたように食いついてきた。
「……生徒はテロに巻き込まれた挙句、誘拐もされる始末だ。本当に迷惑をかけた」
「て、テロ……?」
魔術戦大会では、俺が警備から抜けた隙にテロリストに占領されてしまった。そして、修学旅行では生徒が俺の暗殺のために誘拐されてしまった。
本来ならクビになってもおかしくないだろうな。
人々を守るために派遣されたのにこれじゃあ、異世界の英雄の恥だ。
もっと精進しなければ……。
「────」
そして俺たちは、この数ヶ月であったことをゆっくりと話した。
話を聞いていると、どうやら俺が他国へ派遣されてすぐ、3人はダンジョン攻略へと向かったようだ。かなりの高難度ダンジョンだったみたいだが、攻略できたらしい。それによって新たなスキルや武器を得たんだとか。
「……なんというか、俺よりもよっぽとRPGみたいなことをしているな」
いや、異世界の英雄はこれが普通なのかもしれない。
「で、3人ともどれくらい強くなったんだ?」
「ふふふ……驚かないでくださいよ。これを見よ!!」
愛花は、自身のステータスボードを俺に見えるように開いた。
(なになに……スキル『治癒の支配者』『魔力吸収』?少し物騒なスキル名だな…………それに、ステータス値が前とは比べ物にならないほど上がっている。なるほど、今のレベルは630か。確かに圧倒的に強くなってるな)
「……あのー」
「……ん、どうした?」
「少しは驚いてくれても良いんですよ?」
俺の反応が薄かったのか、愛花が不満気に言う。
「すまない。こ、これは驚いた!」
「平さん、私のことなめてますよね?」
「そんなことはない」
しかし、3人とも頑張ってるな。
「『治癒の支配者』か。どうやらこれは普通のスキルじゃなさそうだな」
「あ、やっぱり分かります?そのスキル、ダンジョンで属性神の試練をクリアしたから貰えたんですよ」
──
【名】治癒の支配者
【分類】特殊スキル
【効果1】回復魔法を使用するとき、使用するための魔力を10分の1にする。また、全ての回復魔法にステータス値1000の回復を追加する。
【効果2】自身のHPが100を下回った場合、自動で治癒魔法を発動し、全回復する。この時に使用する魔力は50に固定される。
【効果3】24時間に1回、自身の魔力を全回復させることができる。
──
「……これは」
なんというか、余りにも強い能力が詰め込まれ過ぎていて驚いた。
「ふふふ、つまりですね平さん。もう私たちは足手まといなんかじゃないってことですよ!ランクの差なんて、努力で簡単に乗り越えられるのです!!」
愛花は、鼻高々に俺を見た。
「……別に俺は愛花たちを足手まといと思ったことは無いんだが」
何はともあれ、嬉しそうにしているのでそれで十分だ。
***
「……嘘……でしょ?」
ここは誰にも知られていない、前田水樹だけの場所。
『ランクSの』異世界の英雄として手にした特殊スキルによって作り出した、異次元空間である。
「……夜川君を……暗殺?」
ここで、前田水樹は常々気になってきた国家審議の内容を魔法で盗聴していたのだ。
(どういうこと……?何で教会が異世界の英雄の命を狙うの?)
混乱。
彼女の頭は、それだけが支配していた。
(……確かめなきゃ)
―第15話 完―
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