第11話:no.781②
第11話です。
水都ルーア。観光地として毎年多くの観光客が訪れるその街は、世界中の人間が想像しているような『綺麗な街』ではなかった。
貧富の差。窃盗や誘拐。秘密組織のアジト。
観光客が訪れるエリアから少し離れるだけで、治安は一気に悪化する。
特に治安が悪いとされているのが、地区の大部分がスラム街と化しているG地区である。
ここでは貧困した人間が溢れ、日々窃盗や子供の人身売買が多発している。
しかし、観光エリアとは離れていることもあり、国を治める教会はこの状況をほとんど改善しようとはしない。
属性神の教えを基に、全ての人間の幸福を願って活動する教会の姿は、ここには見られなかった。
***
「…………………ターゲット……だと……?」
なんで、ここにいる?
いやそれ以前に、私の『空間認知』をすり抜けた?
いや、それ以前に、このアジトの場所は組織の一部の人間しか知らない上に、ここまで来るのに無数の罠が仕掛けられているはずだ。
それらが全て突破された?
あり得ない。
それに、さっきまでこの部屋には支部長とクリフがいたはず。2人はどこへ行った?
先ほどまで『空間探知』が働いていたはずなのに、今は2人がどこにいるかが分からない。
2人が裏切るなんてことは有り得ないし、ドアが空いた気配もなかった。そうなると、最悪の状況を想定しなければいけなくなる。
「あれぇ?どうやって来たのかは知らないけど、『約束』は守ってもらわなきゃ困るんだよね?」
ターゲットに動揺を悟られることだけは、あってはならない。ゆえに私は、ターゲットが来ることも想定済みだったかのような態度で話を進める。
「……約束か。約束というのは、双方が了承したものを言うんじゃないか?」
「はぁ、そんなことどうでも良いんだよね。私は現に君の弱みを握っている。君だって、自分の生徒が死ぬのは嫌だろう?嫌と言うのも、出世の障害になるからかもしれないけどぉ。」
とにかく、相手を揺さぶって隙を作るのが最重要だ。
「まぁその辺の認識は良い。それよりも気づかないのか?」
「……は?」
男が、天井を指差した。
私は、警戒しながら上方を確認する。
「…………ちっ」
思わず焦りを隠せなかった。
天井には、魔法らしきもので拘束され、動けないクリフたちの姿があったのだ。
(……いつの間にやった……?もしかしてこの男、『空間認知』を阻害する魔法の使い手なのか?)
そうならばこの状況は好ましくない。
ここまで互いを認識している以上、『暗殺』スキルを使うのは現実的ではない。
『麻痺』のスキルでまずは動きを鈍らせることが第一か。
幸いにも、私には『能力値操作:特大』のスキルがある。
私は、男を対象として、能力値操作を行う。これで、男のステータスは10分の1になったはずだ。
同時に自身のステータスも100倍になっていることを確認するため、スキルを発動する。
「『確認』」
────
【スキル名】確認
【効果】自身が『能力値操作』のスキルを使った時のみ使用可能。対象のステータス値を確認できる。
────
「………………は?」
数秒間、私は何も考えられなくなり、硬直した。
それほどまでに、一種の恐怖を感じた。
もしも今ターゲットが私を殺そうとしていたら、一瞬で殺されていた。
────
【対象】オサム・ヨルカワ
【確認内容】対象のステータスを10分の1に低下させ、自身のステータスを100倍に上昇させましたが、対象のステータス値を正確に捉えることに失敗しました。
【警告】対象の能力値が、自身より現段階で最低1000倍以上高い可能性があります。
────
「…………」
……1000倍?能力値を調整した上で?
そんなことがありえるのか?
もしもそれが本当なら、この男は確実に人間ではない。
「……ふー」
少し経って、頭が冷えてきた。
そうだ、そんなことはあり得ない。
おそらくだが、この男は私を動揺させるために何かの魔道具か魔法かは分からないが、私の能力を阻害できる手段を使ったのだろう。
絶望する必要はない。
「へぇ、ある程度対策はしてきたの?で、もしかして私に勝てるとでも思ってるわけ?」
そう言いつつ、裏で魔法を展開する。相手がどんな手を使ったかは知らないが、対策してきたということは、私に素の状態では勝てないということだ。ならば、問題はない。
「……ああ。まぁ、負けるとは思えない」
あと少し。
「ふーん?何か隠し球でもあるの?」
あと少し。
「いや、そもそも──
今だ。
(『圧殺』)
私の合図で、男の立っていた地面が割れ、それが男を囲むように一気に移動した。これは『圧殺』の魔法で、準備に時間がかかるものの、相手を一瞬で圧死させることができる。
本来ならば長めの詠唱や魔法の構築を行う必要があるが、私の場合はステータスの補助と同時にもともとの魔法のセンスによってそれらを不要にできる。
数秒が経った。土埃がだんだんと晴れてくると同時に、私は違和感を覚えた。
「………へぇ、意外と防御のステータス高いの?」
地面に押しつぶされたはずの男は、何もなかったかのように佇んでいた。
(魔術師は普通防御のステータスは低いはず。魔術学校の教員と聞いていたから、魔術師なのかと思ったが、違ったのか?)
「いや、俺の話を聞いてくれないか?」
「……はあ?」
一体なんだ、この男は。
「お前は多分、俺を人質で脅そうとしていたんだろうが、もう人質はいないし、お前じゃ俺に勝てないからとっとと諦めてくれないか?」
……人質がいない?
「どういう意味?」
「そのままの意味だ」
男は、拘束具のようなものを取り出した。
これは、私が人質を捕らえていたものと全く同じだった。
「……ちょうどいい。──イディアさん、出てきてください。」
「あ、はい!!」
「……まじか?」
私の目の前に、拘束しておいたはずの少女の1人が何不自由ない状態で現れた。
「彼女は強いから、人質を奪い取ったことの証明のために協力してもらったんだ。ちなみに、他の生徒は既に俺が信用している人間に誘導してもらった。」
「……」
どういうこと?
初めから全て終わっていた?
場所を特定し、スキルの対策も済ませ、バレずに侵入し即座に人質を解放する?
この男は、この短時間でそんなことをやったのか?
「というわけでもう一度聞くが、もう俺たちには危害を加えないでくれるか?もしもお前らがこういう仕事を嫌でやってるなら、協力はするが。」
もう訳が分からない。
「……残念だけど、それは無理ね。」
「何故だ?」
「私たちは殺し屋だから、仕事に失敗するということは、死ぬことと同じなの、よ!!」
「……っ」
私は、相打ち覚悟で毒を仕込んでいたナイフを持って男の懐へと飛び込んだ。
だがすぐに、これでは男は殺せないと気づいてしまった。
何かの衝撃を感じる。
同時に、視界が暗転する。
「……はぁ、ふざけんなよ。」
私は、意識を手放した。
***
──17年前。
「……また孤児か。」
「ええ。私どもの方へ売られるのは、ほぼ貧民の子供か、孤児のどっちかですからねぇ。」
g地区の、ある組織の支部に奴隷商がやってきた。組織と奴隷商は古くからの付き合いである。
今日は1人の少女を連れてやってきた。
「なかなか見込みのある子供だと思いますよぉ。この年で大人に勝てるくらいの戦闘力がありますからねぇ。」
奴隷商は、鎖で繋がれた少女を指差すと、能力の測定結果が書かれた紙を手渡した。
(……確かに、まだ5歳だというのにとんでもないステータスだ。それに、スキルの欄が不明?まだ解明できていないスキルを持っている。まぁこれは見込みがあるのは間違いない。とは言え……。)
「……そうか。買い取らせてもらおう。」
「毎度お買い上げありがとうございますぅ。」
(こんな子供に、人を殺させるのは、流石に私でも心が痛むがな……。)
「では、いつも通り『教育本部』へと移送ということでよろしいでしょうか?」
「ああ、頼んだ。」
***
「──ちょっと、『no.781』、早く起きて。いつまで寝てんのよ。」
―第11話 完―
お読みいただきありがとうございます。
全体的に投稿が遅れていますが、次話は早めに投稿できそうです。




