第9話:暗殺③
第9話です。(もし待って下さっている方がいらっしゃいましたら)お待たせ致しました。
「──俺は異世界の英雄だ。この世界の人間を救うために、召喚された。」
「………………………は?」
多分私は、男の突拍子もないその言葉を聞いて、数秒間硬直していたと思う。
そのくらい、その言葉には重みがあった。
「勉強はしているが、俺はこの世界の人間ではない以上、この世界について詳しくない。だが、困っている人間を助けることはできるはずだ。俺は多分、そのためにこの世界に来たのだから。」
「…………」
あり得ないような話である。しかし、さんざん男の戦闘力を見た今では、その言葉を信じられることも、また事実だった。
「……何か証拠はありますか?」
これ次第では、私はこの人物への認識を改めないといけない。
「そうだな……なら、これでどうだ?」
「……っ!?」
男が懐から取り出したものは、かなり上等な仕上がりのプレートだった。
そこに書いてあったことは、この男がかの異世界の英雄であることを裏付けるものだった。
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【証明書】ハント王国国王が、これを証明する。
【人物名】オサム・ヨルカワ
【肩書き】異世界の英雄/ランクS職業
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それにはしっかりと印が押され、偽装できるような品物ではなかった。
「……分かりました。貴方が異世界の英雄であることは。」
……ただ、だとすると分からないことがある。
「では……なぜ貴方は、教会に命を狙われているのですか?」
***
「……アンジェリカが失敗した?」
「ええ、そうみたいよー。残念だけどー、もうターゲットに捕まっちゃったみたいねー。今頃殺されてるんじゃない?」
ナイフを舌の上で遊ばせている少女が、暢気にそう言ったのを聞いて、少年が反応した。
「……っ、そんな!」
「兄としては可哀想だけどー、こんな仕事してんだから文句言えないでしょー?」
「…………」
「おい、慌てんな。」
「はーい」
「……あ、すみません」
「ここまで来たら、もうプラン3に移行するだけだ。俺らは仕事が仕事だ、途中で上手くいかなくなっても、立ち止まることは許されない。」
「はいはい。早く命令してくれるー?」
「……ああ。というわけだ、『No,781』。ターゲットの命はお前が握るんだ。どんな手段を取っても構わない。殺せ。」
***
「……なぜ貴方は、教会に命を狙われているのですか?」
俺の言葉を聞いた後、しばらく何か考えている素振りを見せていた女だが、やがて口を開いた。
「……」
なるほど、そう来たか。
まさか教会に狙われているとは。
「残念だが、俺もなぜ狙われているのかは分からない。……と言うよりも、狙っているのが教会だというのも初耳だ。」
ここは正直に伝えるのが良いだろう。
「……本当ですか?神聖な教会に命を狙われるなど、よほどの理由がないとありえないはず。神官の目の前で属性神を侮辱する発言をしたとしても、ここまでのことにはならないはずですから。」
「……そう言われても、俺もなぜ狙われているのかわざわざ調査していたところだ。」
……どうしたものか。
少なくとも今分かることは、この女は俺がなぜ暗殺対象になっているのか知らないということ。そして当然、俺もなぜ狙われているのか知らない。
となると、ここで2人で話していても何も解決しそうにない。
俺は取り敢えず、女にどこに所属する人間なのか、そしてどのような作戦が立てられていたのかなどを詳しく聞いた。教えてもらえないかと思ったが、意外にも、自分の兄の命を保証するという条件付きで丁寧に話してくれた。
女の話によると、自分が暗殺に失敗した場合は即座に次の作戦に移され、新たな刺客が俺を殺しにくるという。用意された刺客は次に来る人間が最後で、組織も信用する実力者だと言うことだ。
「……なるほど。で、お前はこれからどうするんだ?」
「……どうする、とは?」
「悔い改めて普通の仕事をして、普通に生きるのか?それとも、また組織に戻るのか?」
「……は?」
少し間が開いた。
「何かおかしいことを言ったか?」
「私を殺さないんですか?」
「……なんで俺がお前を殺さなければならないんだ?」
「…………」
なぜだか知らないが、女もといアンジェリカは、俺を呆れたような目で見てきた。
「なんでそんな目で俺を見るのかは知らないが……とりあえず、お前兄がいるんだったよな。お前らの安全と新生活を確保するからついてきてくれ。」
***
「……はぁ、疲れたぁー」
「はしゃぎ過ぎでしたよ、イディアさん。」
「はは、ごめーん。」
ホテルの一室にて、イディア、シンシア、セイレのいつもの3人が集まっていた。
時刻は既に午後5時。集合時間よりは早いものの、一日中水都を巡っていたことで、疲れ果てて部屋へと戻ったのだ。
ちなみに、ここはイディアの部屋だ。
「あ、トランプしませんか?」
「お、いいねー!セイレもやる?」
「……はい!」
3人は、トランプをそれぞれに配ってゲームを始めた。
そのゲームの名前は『ダイフゴウ』。
昔、異世界からやってきた人間がこの世界に伝えたものだ。ルールは『大富豪』とほとんど変わらないが、違う点としては、場所によってかなり独特なローカルルールがある、ということだろう。
この魔術学校のローカルルールは、なんと言っても『魔法を付与したカード』を使うことだろう。
「……よしっ、ここで2よ!!」
勝った、と言わんばかりにイディアが残り2枚となった手札から最強の2を出した。
「甘いですね、イディアさん!『マジックカード・ランダム革命』!!」
「なっ……!」
シンシアが『マジックカード』という表面だけが特殊な装飾を施されたカードを使うと、3人の前にモニターのような半透明の物体が現れる。
これこそが、このダイフゴウの醍醐味である。
このターン中、マジックカードがまだ使われていなければ、1枚から2枚まで使うことができる。
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【マジックカード名】ランダム革命
【効果処理】ランダム→→→→→【結果】このターン中だけ、5が最強になる。
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「というわけで、5です。」
「ぬああああああああああ……!?」
ランダムに最強カードが決まるランダム革命により、5が最強のカードになり、ジョーカーを持っていないイディアはカードを出すことができない。
「というわけで、ここで8切りです。そして、2を出して、Aを3枚出して、上がりです。」
「ま、負けた……」
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3位:イディア
2位:シンシア
1位:セイレ
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「……ていうか……セイレ強すぎるって……」
「運が良かっただけです。」
「……いや、流石に8連続1位は実力だって……」
カランッ
セイレの予想外の強さにイディアが狼狽えていたその時、部屋のチャイムが鳴った。
「──すみませんー!この部屋にお届け物でーす!」
「あ、はい!分かりました。……ちょっと行ってきますね。」
それを聞いて、シンシアが1人廊下へと向かう。
「あれ、何が届いたんだろ?セイレ知ってる?」
「いえ……私は知りません。」
「先生が何か注文したのかな?」
1分後──
「……あれ、シンシアまだかな?ちょっと行って見よう?」
「そうですね。」
なかなか玄関から戻ってこないシンシアが気になり、イディアとセイレも玄関へと向かった。
「…………え?」
ドアを見たその瞬間、イディアとセイレの視界は暗転した。
***
「……は?何だって?」
「……いえ、その……気づいたら生徒さんがいなくなってまして……」
「まじか……。」
アンジェリカはひとまず信頼できる人に預け、俺はホテルへと戻ってきたのだが、何故か俺の生徒が消えていた。
……いや、何故か、というのは間違いか。何となく理由はわかる。
何か手がかりがあるかと思い全ての部屋を調べると、俺の部屋の何やら怪しい置き手紙を発見した。
────
オサム・ヨルカワ へ
お前の生徒10人は、私が攫った。
返して欲しければ、今夜12時に、ルーア中央公園の噴水前に来い。
お前が来ない場合、12時から1分ごとに1人、生徒を殺していく。
賢明な判断を祈る。
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「…………なるほど。」
まさか、俺を狙うためにここまでするとは。
傾向が違うということは、アンジェリカが言っていた他の殺し屋か。
「さて…………」
俺のミスだな……。俺から離れさせた方が安全かと思っていたのだが、まさか今日一気に狙ってくるとは。
とは言え、俺も一方的にやられることはできない。
プライバシーの観点から、生徒を常に見張っていることはしなかったが、この時くらいは許されるだろう。
「……こんな時には、この魔法だろうな。『特定探知』。」
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【魔法名】特定探知(レベル1)
【効果】特定の生物(自身が認識している生物)を対象に、居場所を探知する。
【魔力消費】1000/生物1個体あたり(/10分)
【属性】闇/サポート
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【結果】主の生徒10人の居場所を表示します。
イディア
シンシア
セイレ
………………
………………
全員水都南東部の建物内にいます。
これよりマップを表示します。
────
「……なるほど。」
どうやら、誘拐された俺の生徒は全員敵の本拠地にいるらしい。
これは都合が良い。
これでけりをつけてしまおう。
残念だが、俺は深夜まで待ってやるほどお人好しではない。
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【報告】主が迷わないように方向を常に示すのでご安心ください。
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「あ、ああ……。」
いつの間にか、スキルが俺のことを気遣ってくれるようになったようだ。
AIが学習するような原理……なのか?
まあ……助けてくれるのは本当にありがたい。
「これからも頼むな。」
***
-水都ルーア南東部『G地区』にて-
ここG地区は、通称、『掃き溜め』。
貧困層が、家を追われ、もしくは初めからここに生まれ、最低限の暮らしをするために生きる場所。
G地区という名前はついているものの、実際はあってないような扱いをされる、スラム街。
そんな場所に、彼らのアジトはあった。
「──で、こいつらをどうするんだ?」
「そうねーぇ。まぁ、暗殺対象を安全に殺すための道具だから。」
現在、アジト内には、女が1人と男が2人。そのうち、女は『No,781』と呼ばれる暗殺者だ。
また、アジト内の牢屋に、生徒10人が拉致されていた。全員目隠しをされ、手錠をかけられている。
「10人しかいないんだし、大切に扱わないとぉー。」
no.781は、少し残念そうにする。
「まぁ、どうせ来るでしょ、一応教師なんだし。何人死ぬことになるかは知らないけど。」
「……僕はあまりそういうやり方はいやだな……」
もう1人の男──アンジェリカの実の兄クリフがそう呟いた。
「あ゛?何?私のやり方に何か文句でもあんの?」
「……」
「……おい、俺から一応言っておくが、お前の妹を取り返したいんじゃないのか?そうだったら、少なくともターゲットを確実に誘き出さなきゃならない。」
「……それは分かってます。……ですが、それでも全く罪のない一般人を殺すのは……僕は……」
「まぁ、ターゲットがちゃんと12時に来たら、殺さないでおいてあげるわよ。……まぁ、殺さないだけだけど、ね☆」
「……っ」
no.781は、胸元に隠し持っていたナイフを、自分の舌に這わせると、ニヤリと顔を歪める。
「約束通り、ターゲットが来るか、楽しみだわぁ!」
―第9話 完―
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