第8話:暗殺②
第8話です。なかなか文章を書けませんでした。
……クリフ兄さん、ごめんなさい。
私がもっと頑張れれば……
(……目は見える。ターゲットの性格の悪さがでている。これからじっくりと拷問にでもかけるつもりだろう。)
残念だが、実力差がありすぎた。
これはもしかしたら、私が失敗したときのために派遣された『No,781』も危ないかもしれない。勝てないどころか、無残な殺され方をされてしまうかもしれない。
……いや、今まで大勢の人間を殺してきた人間が、いつどんな殺され方をしようが、心配してくれる人間なんていないだろう。
でも、良い。
作戦の関係上、おそらくクリフ兄さんは無事だ。
私は、それだけで全て良いんだ。
***
〜平視点〜
狙撃手に『束縛』を打って約5分。俺は高台へとたどり着いた。
「……こんな場所から打とうとしたのか。」
狙撃手がいたのは観光名所である『視神の高台』の、最上階のテラスの天井付近だ。
ちょうど人が入ることができるくらいのスペースがあり、銃で獲物を狙うにはちょうど良いのかもしれない。ただ、そのままだと誰かいることは分かるので、丁寧に隠蔽魔法を施してあるのだろう。
「さて、早く対処しないとな。」
このまま長く放置すると、何をされるか分からない。
最も、何をされるか分からないのは主に狙撃手だが……。
暗殺を仕掛けてくるような組織なのだから、暗殺に失敗した人間を消してもおかしくはない。
(……よし。)
俺も隠蔽魔法を利用し狙撃手の女の元へと近づく。
近づいてみると、幸いにもまだ何も起こっていないようだ。
「……少し、ここから離れよう。」
俺は狙撃手を、少々手荒ではあるが、そのまま抱えて高台を降りていった。
──1分後。
視神の高台から出た俺は、手始めに近くの喫茶店へ入った。せっかくの食事を邪魔されたことで、あまり休めていなかったから丁度良い。
「で、あんたは何者だ?」
「……………」
俺の向かいに座っているのは、俺が先程束縛を解除し動けるようになった狙撃手の女だ。
まぁ不審な行動をしようとした瞬間に再び拘束するが。
……しかし。異様に大人びているせいで気づかなかったが、改めて近くでみて見ると、まだ子供かもしれない。感覚的には、俺と同い年くらいだろうか?
「なんで俺を狙ったんだ?……というか、ここまでしてくるんだ、当然、次の刺客もいるんじゃないのか?」
「……」
女は一切口を開かない。暗殺者としてはできているな。
人間としてどうかは別にして。
「一応言っておくが、俺は不殺主義なんだ。だからお前もその仲間も殺したりはしない。例え命を狙われているとしてもな。」
~アンジェリカ視点~
(……来た……体の一部でも動かせれば……)
私のいる方へ、ターゲットが向かってくるのが反射して見えた。
(でも、性格が悪いことをする割には、外面は良さそうな男だ。無駄に顔も良い。)
私は、これからどんな恐ろしい拷問を受けるのかと考えると、早く死んでしまいたいと思うようになった。
そう思ったとき、男が動いた。
「……少し、ここから離れよう。」
(……?!)
私は、男に抱えられると、ありえない速さで高台から離れていた。流れゆく景色が見えたのかどうなのかすら分からないレベルだった。
「……この辺りなら良いか。」
男は、路地裏で立ち止まった。
「よし。もう動いていいぞ。」
「……!」
男はゆっくりと私を下した。
同時に、私の体にかかっていた拘束魔法が解かれた感覚があった。
「……!!!」
その隙を見逃すことなどできなかった。
私の本能が、この男を殺さなければまずいと告げている。
私は、袖に隠し持った刃物を男の顔目掛けて放つ。
失敗など、もう恐れることはない。
どうせ拷問されるなら、せめて一矢報いる。
しかし──
「まずは落ち着いてくれ。」
「……なっ!?」
放った刃物は、男の首の表面で静止した。いや、静止したというよりも、首の皮膚で止められていると言った方が正しいだろうか。
驚くことに、刃物は男の皮膚を貫通することができなかったのだ。
「とりあえず話し合いがしたいから、着いてきてくれ。」
***
「一応言っておくが、俺は不殺主義なんだ。だからお前もその仲間も殺したりはしない。例え命を狙われているとしてもな。」
信じられるわけないだろうに。
私に情報を吐かせるためのはったりだろう。
おそらく、私が吐いてしまえばこの後仲間は全員殺されることになる。
「……」
だから、私にできることはただ無言でいることだけだ。
「……まぁ、しゃべらないならそれで良い。今後俺の命を狙わないと約束するなら、いや、というよりも、今後こんな仕事をしないと約束するなら、俺はお前らに深く干渉はしないさ。」
「……」
「もし、働き口がないというのなら、俺が紹介してもいい。とにかく、こんな仕事は止めにしないか?相手が俺だったから良かったが、他の人間だったら人が1人死んでたかもしれないんだ。命があればどんな可能性だってあるのに、命を奪うなんて非効率的だとは思わないか?」
……この男が言っていることは、もっともなんだろう。
しかし、私だってこんな仕事がしたくて生まれてきたわけじゃない。
所詮は、恵まれた人間の見る、絵空事にすぎない。
この男の言葉を聞いていると、吐き気がしてくる。
「……」
だが、何よりも腹立たしいのは、こんな状況下でも何もできない自分自身だった。
「残念だが、俺はお前らの事情は知らないし、そもそもなんで命を狙われているのかもわからない。でも、どのみち放ってはおけないからな。」
「……」
「まあ、良い。話したくなったら話してくれ。」
そう言うと、男はメニュー表を眺めた。
「何か食べたいものとかあるか?」
「……」
「じゃあ適当に頼むぞ。」
冷静になって周りを見ると、かなり質の良い店だ。
ちょっとした高級店のような喫茶店で、この男が金を持っていることが分かる。おそらくだが、どこかの貴族の人間あたりだろう。生まれた時から困ったことのないような。
教会から狙われているということは、何か悪いことにも手を出しているのか……。
「ご注文お決まりですか?」
「はい。」
ウェイターが回ってくると、男は手を挙げて呼び寄せる。
「メロンソーダを2つと、ランチセットを1つお願いします。」
「……!」
不覚にも一瞬、動揺してしまった。
数分後、頼んだ飲食物が運ばれてくる。
「あ、ランチセットは彼女に。」
「かしこまりました。」
「……?」
食事で心を緩め、吐かせる作戦か?
そのわりには、本人は夢中でメロンソーダを飲んでいるが……。
「──?どうした、食べないのか?」
「……」
「見た感じまだ昼ご飯食べてないだろ?お金は俺が出すから心配する必要はない。」
「……」
まずい。
感情を抑えられない。
「……どれだけ」
「ん……?」
「どれだけ……私たちを侮辱すれば気が済むんですか……!!」
「……っ」
気が付けば私は、男の胸倉を掴みかかっていた。
「……とりあえず落ち着いてくれ。」
「幸せにしか生きてこなかった人間には、分からないでしょうね……。私や兄さんが、どんな気持ちでこんなことをして生きてきたなんて……!」
「…………」
「仕事をしくじったら、命はない。そんな世界、望んで入るなんてことはない。才能も、お金も、すべて持っているそんな人間に命を握られている気分を想像できるの?心配する必要がない?簡単にそんなこと、言われてたまるものか!」
私は、抵抗しようとしない男の首に手を伸ばすと、そのまま力を込める。
「……そうか。確かに、俺はお前じゃないから、お前の気持ちは分からないな。」
「何をいまさら……」
「……だがそれでも、俺はお前を放ってはおけない。それに、何か勘違いをしているようだが、俺はお前や仲間に危害を加えるつもりは全くない。」
「……っ」
男が表情を変えた。
気づけば、首に掴みかかっていた手が離れる。
次の瞬間。
男は、信じられない言葉を口にした。
「──俺は、異世界の英雄だ。この世界の人間を救うために、召喚された。」
―第8話 完―
お読みいただきありがとうございます。




