第4話:水都の夜①
第4話です。短めです。
……私の名前は『シルフィ』。
私には両親の記憶がないし、一緒にいる家族もいない。
この名前も、子供の頃に預けられた孤児院の前院長がつけてくれたらしいが、私の記憶があるのは今の院長がいる孤児院だ。
はっきり言ってあそこは最悪だった。
満足な食事など与えられないし、院長による虐待は当たり前。
私と同い年の子も、一回指導室に連れられた時以来見ることはなくなった。
そして、ひたすら劣悪な環境で12歳まで育った後、私は捨てられた。
この国では保護される対象は12歳までらしく、私はもう一人で生きていかなければならなかった。
私は今14歳。
2年以上の間、このいつ死ぬか分からないスラム街で、明らかに良くない仕事をさせられたり、時に繁華街へと足を運んでは盗みをしたりもした。
ちなみに私は満足に教育は受けられていなかったが、教材を拾ったり、時には盗んだりして何とか勉強した。
それを続けているうちに、自分と違って家族がいて、毎日生きることを何よりも考えることもなく、悠々と日々を過ごしている人間をうらやましいと思うようになった。
でも同時に、そんな人間が憎い、とも思ってしまった。
「俺と来ないか?こんなことをしているよりも、もっと建設的だと思うぞ」
だから、こんなことを言われる日が来るとは思わなかった。
想像も、していなかったのだ。
「あ……」
私は明らかに、油断していた。
この人を信じさせてほしいと、心が自分を引き留めてしまった。
もし今、この人が自分を殺そうとしても、私は抵抗できないだろう。
「……本当?」
私は、優しい言葉をかけられたことがない。
たとえこの人が自分をだましているのだとしても、私は優しい言葉をもう知ってしまった。
もう、後戻りはできない。
「ああ、大丈夫だ。行こう」
「……わかった」
私は、首を振って頷いた。
***
「さて、お前……いやシルフィ。俺と一緒に来るなら、複数選択肢があるんだが、どれが良いとかあるか?」
俺は、目の前の少女に、俺ができることをとりあえず話す。
それと同時に、簡単な自己紹介をした。
選択肢としては、俺と本当の意味で活動を共にする、つまり魔術学校に居場所を用意させるというものと、今は別行動している俺のパーティーメンバーに加えるというもの、後はハント王国などに保護してもらうというものがあるだろう。
「……私は……」
「……」
どうやらまだ考えがまとまっていないか。
それもそうだろう。
まだ名前を聞いたくらいだ。
もう少し心を開いてもらわなければ。
「……貴方は、冒険者ギルドの人?……でも、服装といい、随分裕福に見えるけど……」
シルフィは、腕を抱えながらも、顔を下に向けずに俺に問いかける。
なるほど。確かに俺の存在は得体が知れないな。
さて、どこまで説明するか。
「ああ、確かに俺は一応冒険者ではあるな。それに、俺の服装が豪華なのは確かだ。実は俺は今、生徒を連れてこの神聖ミナ教国に来ている。修学旅行ってやつだ」
「……旅行ってことは観光客……?というか、かなり若いけど先生……?……あ、すみません。敬語つかえなくて」
「敬語は別に良いよ。冒険者みたいな野蛮人は敬語使わないらしいしな。君が言う通り俺は観光客だ。君よりも1、2歳くらい年上の生徒たちと一緒に来てる」
「そうなんだ…………あ。あの、私も連れて行ってくれ……ますか?」
「ああ。それは約束する」
俺は取り合えず、詳しい説明をするために彼女と共に喫茶店に入った。
盗まれた生徒の財布は既に回収しているので、今夜の集合時間に返すことにした。
「何か食べるか?お金は出すから好きなだけ食べていいぞ」
「……あ、私は……大丈夫」
「遠慮しなくて良いぞ」
「あ、じゃあ……これ、を」
「分かった」
俺は、彼女が指差したメニューを注文する。
しばらくして、料理が届いた。
彼女が注文したのは、トマトのパスタだ。
シンプルながらも、とても美味しそうである。
「……美味しい」
「それは良かった」
「…………」
「……ん、大丈夫か?」
彼女の目から涙がこぼれた。
俺は一瞬、パスタを喉に詰まらせたのかと思って非常に焦ったのだが、そうではないようだ。
「……ありがとう、お兄さん」
彼女は、初めて美味しいものを食べたかのように、大事に大事にパスタを食べていた。
「落ち着いて食べような」
***
カフェを出ると、俺はシルフィと共に取り敢えずホテルへ向かった。これからどうするにしても、今日泊まる場所は確保した方が良いだろう。
ちなみに、俺が彼女の仲間など、連れていきたい人がいるかと聞くと、仲間はいないと答えた。
「……さて、これからどうするか」
俺は、彼女の待遇について思考を巡らせた。
-第4話 完-
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