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第3話:大浴場とスリ

 第3話です。




「──はぁ……癒されるー……」

「そうですねー……」

「…………zzz」


 教国一の大浴場。

 様々な施設が併設されたその場所は、この地へやってきた者ならば必ずと言っていいほど訪れるスポットである。


 現在ここには、2年Aクラス(現)の男子、女子全員がいる。



 女子用の浴場では、イディア・シンシア・セイレのいつもの3人が集まっていた。


「……はぁ……こんなに大きなお風呂入ったの初めてー」

 ぐったりとした様子で風呂の段差に体を預けているのはイディアである。


「なんか、ここ数か月の疲れが一気に襲ってきた気分……。大変だったなー……」

「そうですねー……」

「……zzz」


「いつの間にか、私が魔術戦大会の大将やってたり、私たちがAクラスになったり……。本当にびっくりなことだらけ……そういえば、先生今どうしてるのかな?」

 イディアはふと、自分を導いてくれた人間のことを考える。彼は自身の人生を変えたといっても過言ではない。


「そうですねー……」

「……zzz」


「……ん?」

 イディアは何やら異変に気付いた。


「………あ」

 イディアが正面を見ると、顔が赤くなってのぼせているシンシアと、うとうとしているだけかと思いきや完全に寝落ちしているセイレの姿があった。


「や、やば!?」




          ***




 ──時は19時。

 生徒たちは、ホテルのホールにて、バイキング形式のディナーを満喫していた。とても豪華な内容だ。生徒たちが喜んでくれてよかった。


「……さて、俺も何か食べるか」


 俺は、生徒たちの後に続いて皿を手に取る。

 体に良い食事は大事だからな。


「……ん?」


 俺の前に、紫色の肉(?)が野菜とともに盛り付けられた料理が現れた。

「……なんだ、この料理……?」

 というより、これ何の肉だ?


「……すみません、これってどういう料理なんですか?」


「あ、こちらですか?こちらは沼魔蛙(フロッグ・デーモン)のソテーに、この国で取れた野菜をトッピングした物になります。この国の名物料理なんですよ」



「……沼魔蛙(フロッグ・デーモン)、ですか」


 沼魔蛙(フロッグ・デーモン)……確かこの世界の一部の沼に生息している魔物だったか。


 個々の能力は魔物の中では低く、討伐自体はそれほど難しくないのだが、毒をもっており、かつ沼の奥にはには大量に生息しているため、運が悪いと上級冒険者でも物量で押し切られてしまうことがある。

 また、毒を処理するにも技術が必要であるため、これもまたこの食材を扱う難易度を上げている。


 そんなこともあってか、この蛙は高級食材であり、ある程度お金を出す場所でないと食べられないらしい。


 ……ただ、見た目がな……なんというか、紫の食べ物はあまり食べたいと思えない。生徒たちの様子はどうだろうか?


「……食べてるな」

 俺の想像とは裏腹に、生徒たちの反応は良いようだ。


「……俺も食べるか」


 俺は、紫の肉を取り皿に盛り付けた。




          ***




「では、今日も自由時間楽しんでくださいね」


 次の日。朝食(相変わらず豪華)を終え、クラスは再び自由時間になった。

 基本的には昨日と同じメンバーで回るようだが、中にはグループを変えて回る生徒もいた。


「……さて、俺も見回りだ」

 俺は今日も危険と思われる場所の見回りだ。


 10分ほど歩いていくと、ルーアでもっとも人が密集する繁華街へとたどり着いた。

 ここには俺の生徒数人がいたはずだ。



「……ん?」

 しばらく歩いていると、俺の生徒たちがいるのが確認できたのだが、ここで俺は違和感を覚えた。


 フードを被った誰かが生徒の一人にぶつかったのだが、フードの人物の動きがおかしい。


 すぐにその場を立ち去ろうとしているフードの人物を俺は追いかける。



 よく見ると、フードの人物は手に何かを持っていた。

 ……もしかしてこれは、スリか?


 しばらくすると、だんだんと繁華街から遠ざかる。

 人はほとんどいないような路地裏で、目の前の人物は立ち止まった。


「……すみません。少し良いですか?」


 フードを被った人物は、近くでみるとかなり小柄だ。

 まさか子供か?



「……っ!?」

 その人物は、俺を見ると一目散にその場から離れていく。


 だが、俺の方が早い。

 俺は肩をしっかりとつかむ。


「……っ!!!」

「!?」


 次の瞬間。

 俺めがけてその人物が回し蹴りをしたかと思ったら、よく見るとそのつま先にナイフのようなものが取り付けられている。

 だが、俺は異世界の英雄のステータスを持っているから当たらないし、そもそも当たってもかすり傷にもなるか分からない。


「……く!!お前騎士団員か何かかよ!邪魔しやがって!!」


 思ったよりも高い声だ。

 そして回し蹴りをしたせいで、フードも捲れた。



「……違う。俺はお前がスリをやっているように見えたから声をかけただけだ」


「ちっ、よりにもって……私としたことが!」

 どうやら女性のようだ。



「ちっ、見え透いた嘘を!!どうせ私たち貧民を見て嘲笑ってんだろ。確かにそうだ。スリはしたよ」


「貧民?……もしかしてこの位置にあるスラム街の人間か?」


「あ゛?決まってんだろ。貧民じゃなきゃこんなことやんねーよ。私は両親もいないし、今日を生きるのが精いっぱいなんだよ!!」


 少女はめげずに俺へと攻撃を続ける。



「……俺は別にお前に危害を加えるつもりはない。お前が盗んだものを持ち主に返せばそれでいい。俺が代わりにそっと返しておいてやる。お金がないなら俺と一緒に来るか?」

「……は?」


 少女は茫然とした表情をして、攻撃をやめた。



「もし困っている人がいるなら、俺ができることはする。流石に連れていくのは数人が限界だが、スラム街の扱い、というか職の提供やインフラの整備などを要請してもいい」


「……どういう意味だよ?」


「俺はこの国ではないが、よその国の割と重要人物だからな。多少は無理して……多少の力技を使ってでも平等な世界を目指すことは可能だと思っている」

「……」

「だから、俺と来ないか?こんなことをしているよりも、もっと建設的だと思うぞ」



 -第3話 完-

 お読みいただきありがとうございます。


 ブックマーク等、本当にありがとうございます。

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