3-17 エルフとの談話
遅くなってすまんせん
まさか、こんなところにアナスタシアがいるとは思っていなかった。少々迂闊だったようだ。
できるだけ早めに行こうとは思っていたけど、まだいい感じの言い訳も思いついてない。
あー、どうしよう。
マジどうしよう。
どうやって説明しよう。
アナスタシアと向き合って苦笑しながら思考を巡らせる。
すると、アナスタシアの顔が歪み始めた。
口を噤んで体を震わせて顔を下に向け、ツカツカと俺との距離を詰める。
え、何ですか?
と、思ったのもつかの間。胸倉を掴まれた。
うえぇっ!?
なんかしたっけ!?
な、何か謝ったほうがいい?
いや別に俺悪いことしてねぇしな。いつもの如く。
しかしアナスタシアは俺の体を持ち上げることはせず、そのまま俺の体に額を押し付けてきた。
「.........グスッ......グスッ............」
すすり泣く声。
床に滴る水。
俺は頭を軽く撫でて止むのを待った。
*****♪♪*****♪***********
「生きていたのか......」
「ええ、まぁ」
「死んでいて欲しいと思っていたのですか? 性格の悪い女ですね」
「お姉ちゃん黒い」
目をこすった跡のあるアナスタシアと向かい合って話をする。
カウンター席では話しづらいので、今はテーブル席に移った。
凄くどうでもいいけど、この木のテーブル、木目の感じが好き。
家に一つ欲しいね。
ていうか家欲しいね。
誰か住まいプリーズ。
「そんな事はない。凄く心配していたんだ。生きていて良かったよ」
「そんなことを言って、どうせ私のことは死んでいれば良かったのにとか思っていたのでしょう?」
それはそうとして、さっきからフェイが黒いんだけど。
服は元より、オーラとか性格とか色々諸々所々黒い。
さながら暗黒物質のようだ。
もしくは黒点。
超怖えよ。
あと怖い。
まぁ、悪女っぽくて悪くは無いケド。悪女なのに。
「いや、不本意ではあるが、君だって同じだ。生きていると分かった時、私は確かに湧き上がった。いかに腹立たしかったとはいえ、私は楽しんでいたようだ。君との会話を」
「っ.........あまり嬉しくありませんが............。その.........、ありがとうございます......」
「ツンデレやーい」
「ツンデレお嬢様やーい」
「違いますっ!」
やーい。照れてやんのー。
ツンデレー。
ツンデレー。
「ふふっ、ツンデレー」
おお、アナスタシアも乗ってきた。
ノリがイイね。
イイヨイイヨー。
「.........チッ」
............おおう、寒気が。
見れば、ルイが肌をさすっている。
よく見ればアナスタシアも。
よくよく見れば、鳥肌が立っている。
フェイさん最強説、ここに浮上。
出来れば無いと思いたい。
「と、ところで、君たちは今まで何をしていたんだ? 竜族に攫われたと思っていたが......」
逃げるようにしてアナスタシアが強引に話を切り替えた。
だがその話、あんまりして欲しくなかったな。
答えれないし。
嘘とか難しいし。
だってほら。僕って正直を絵に描いたような人物じゃないですか。
じゃ無いですか。
そうですか。
いや、そうじゃなくて。
本当にどうしようか。
「..................」
「.........まぁ、話せないことなら、無理に教えてくれなくていいさ。人には、知られたくない秘密が3つはあると言うしな」
苦笑して頭をかくアナスタシア。
絵になるね。
ていうか、誰だそれ言った奴。
人を助ける剣とか使ってねぇよな?
.........一瞬、アナスタシアの表情に少し影が落ちた。
だが、すぐに目を閉じて首を振り、俺の方に顔を戻す。
.........ああ、と。
ふと、思った。
アナスタシアにもあるのだろうか。
おそらく、あるのだろうな。
家族のこととかだろうか。
気にならないことはないが、聞くことはできない。
意外なことに、俺にはまだデリカシーさんが生き残っているのである。
魔王なのに。
っと、話の趣旨がサラッと終わってしまった。
このまま別れてもいいが、この際色々と情報を得ておきたい。
そうだな.........ああ、そうだ。
「アナスタシアさんは、神金剛石達の居場所を知っていますか?」
「.........今更なんだが、敬語はやめてくれないか? 無性に寂しくなる」
あ? まぁ、いいか。
それくらいは。
「まぁ、いいですけ.........それで、どうなんだ?」
「知らない。皆、転移魔法陣からそれぞれのいた場所に帰ってしまった。私は元よりこの国に用があったから、まだいただけのことだ。だから.........あ、いや、1人は分かるな」
「おお、分かるのか。誰?」
アイルーン? バイガローかも。あ、サクヤは気まずいからちょっと.........。
「ゲツェラだ。奴はサングレートの南側に店を構えている。たしか、在庫の確認をしに行くとか言ってたな」
「..................」
「いや、気持ちはわからんでもないが、そんな顔をするな」
いやでも、アナスタシアさん。
分かるでしょ?
ゲツェラかー。
人の良さそうな奴やら男気溢れる奴やら色々といる中で。
よりにもよって彼ですか。
明確に人族以外を見下している彼ですか。
俺が侵略する国の代表みたいな彼である。
............別にいいや。あんまり会いたくねぇし。
人族のコネとか要らんし。
.........いや、待てよ?
たしか彼は武器屋を営んでいたはず。
侵略時の武器のストックはあるに越したことはない。
どうにかしてこちら側に引き込められれば大きな利とな...............
.........らねぇな。
しようと思えば武器の大量生産なんて幾らでも、それどころか相手の武器を根こそぎ奪って俺たち側のものにするという非道だってできる。
やべえ、ゲツェラ、アイツいいとこねぇぞ。
どうすんだよ。
魔法の使い手なんてお前程度腐る程いるぞ。ドラゴニアとかにはさ。
とうとう要らない子だな。
うん。
アイツはいいや。
「他の奴らはどうだ? 心当たりとかないか?」
再度アナスタシアに尋ねてみる。
「ふむぅ、そう言われても.........ああ、そうだ!」
お、何か思い出したか!?
「たしか、ジャックが南のライラスフォールに行きたいとか言っていたぞ」
「ライラスフォール.........たしか、ここからだと、南へ向かってトンゴット山脈を越えたあたりですね」
「不死族の聖地だったっけ。なんか凄いらしいよ。僕は行ったことないなぁ」
「私もないです」
「何それ?」
聞きなれない単語に首をかしげると、フェイ以下3名が驚いたように俺を見た。
「知らないの?」
代表してルイが進み出るが、知らんもんは知らん。
「知らん。有名なのか?」
「だいぶ有名だよ。えっとねー.........何だっけ?」
「ルイちゃん.........。滝ですよ。そこまで大きくはないですし、迫力があるというわけでもないんですが............赤いんです」
「赤? 何が?」
「水です」
その後の説明で、なんとなく掴んだ。
要は、なんか赤い水が流れて来る変な滝ってことか。
で、それがヤケに禍々しくて血を連想させるから不死族に人気と。
たしかにちょっと気になるな。
「そうか、じゃあ、次の目的地はそこにするか」
「りょうかーい」
「私も問題ないです」
2人とも快く承諾してくれた。言っても無駄なんだろうという心の声なんか聞こえないもん。
「そうか。それで、いつ発つんだ?」
「ん、今」
「え.........」
思い立ったが吉日っていう言葉もあるわけだし、ちゃっちゃと行きますか。
準備なんてしようがしまいが変わらんのだし。
「い、今からか?」
「うん、まぁ。ここにいても何も無いしな」
「そ、そうか.........」
............。
.........俺は彼女の場合、連れていくという選択肢はない。
エルフだし、コネは得ておきたい。
戦力にも、多少なるだろう。
だが、今の彼女に、人族への反感の意はない。
連れていくには必ず旅の目的を話さなくてはならなくなる。
その時に、彼女が賛同してくれる確信はないからだ。
ゲツェラならまだいい。
俺あいつ嫌いだから洗脳するのに吝かではない。
だが、彼女は、俺に多少の好意を寄せている。と、思う。はずだ。
そんな人の頭を弄るのは、魔王以前に日本のモラルある努力家な学生であった俺としては、抵抗がある。
というか、そんな事をすれば既に賛同してくれている2人に軽蔑されてもおかしくない。
それは悲しいし、淋しいし、部屋の隅で三角座りでどこまでも堕ちていく自信がある。
俺がこの世界で最も信頼している2人だからな。
そもそもの話、アナスタシア・ノアールや俺が所属している神金剛石という組織は、魔王.........つまり俺を殺すための国際集団なのだ。
彼女は、俺の敵だ。
俺を殺すことに協力するのが、あの組織に所属する彼女の義務だ。他に3つとか4つとかあるけど。
あと、俺にもその義務あるけど。
自殺に邁進するのが義務とか.........。
「わ、私も一緒に」
「ダメだ」
「......っ......そ、そうか............」
意を決して進み出たアナスタシアを一蹴する。
その時の声が思ったよりも低く、彼女は一瞬ビクッとなった。
「そ、う.........だろうな。そうだ。仕方のないことだ。無理を言ってすまなかった」
そう言って目をそらすアナスタシア。
懐をあさって財布を取り出すと、銀貨を1枚出して立ち上がった。
店を出ようとするが、2対2の席で、アナスタシアの隣、通路側に座っていたルイが退こうとしない。
ルイは、ジッと、アナスタシアを見ていた。
その視線にたじろぎ、目を背けると、再び席に着いた。
膝の上で両の拳を固く握ってフルフルと震えている。目には涙が浮かんでいることだろう。
やめて欲しいものである。
アナスタシアを逃がそうとしないルイも、
俺の方をルイ同様にジッと見続けてくるフェイも。
俺は、助ける剣のお姉さんの方式をとることにした。
「アナスタシアは、どんな武器を使うんだ?」
「へ?」
予想外の質問に、思わず変な声が出てしまったアナスタシア。
「いいから」
「いや、えっと、レイピアを.........」
分かった。レイピアだな。
俺は召喚魔法でいい感じのレイピアを召喚した。
.........一応、鑑定ておこうか。
ピッケ:S
カルネア大陸の聖剣の一つ。使用するものに技巧と義心をもたらすと言われるレイピア。
ヒィィッ!
またか!
聖剣とかお呼びじゃないのに!
あと何て可愛らしい名前!
ああもうこれでいいや。使うの俺じゃないし。レイピア使えないし。そういえば俺の武器どうしようかな.........。
「す、スガ? どうしたんだ?」
おっと、アナスタシアを待たせているんだっt......忘れてたわけじゃないぞ?
覚えてたし。
机の下で召喚したそれを、ゆっくりと机に乗せた。
アナスタシアが瞠目して、俺とレイピアを交互に見る。
「えっと、これは.........」
「カルネア大陸の聖剣の一つ、聖剣ピッケだ。使うと強制的に技術が上がる。何か凄ぇ奴」
「え、えええぇぇぇえぇえ!?」
おい、声を抑えろ。店員さんビックリしてんだろうが。
特に店長とか、ほら、泡吹いてる。
「コレをあんたに貸す。ライラスフォールに行ったら、一旦俺たちはカームの国に戻るから、その時に返せ」
「.........え?」
「いいか、絶対だぞ。借りパクとかすんなよ。ランダムゲットした奴だけど、一応聖剣だかんな」
「は、はあ.........い、いや待てっ! こんな物を私に貸し与えて.........何のために!?」
俺は答えない。
代わりに立ち上がった。
別に示し合わせていたりはしないのだが、フェイとルイも同じように立ち上がる。
そういう空気を読んでくれるところ。嫌いじゃないぜ。
「じゃあ、またな」
そう言って振り返らずに店を出た。
アナスタシアがどんな顔をしたかは、知らない。
*****♪**♪***♪♪*****♪****
その後のサングレートでは、レイピアを見て実に嬉しそうに微笑むエルフの目撃情報が相次いだ。
あ、3章終わりです




