3-16 レストランにて
途中、アナスタシア目線入ります
「それで、どうしますか?」
「何が?」
美味しいスープに舌鼓を打っていると、フェイが話を切り出した。
だが、ルイは質問の意図が分かっていない様子。
まったく、理解力のないガキはこれだから......。
「それで、何のことだ?」
「スガ様もですか.........。しっかりしてください」
そりゃ無理難題というものだ。
俺だぜ?
「神金剛石やギルドの方々への説明のことですよ。ドラゴニアのことを話すわけにも行きませんし.........」
ああ、それか。てっきり竜族の協力のことかと思った。
あ、いや、それも大事ではあるけど。
そうか。そうだな。確かにどう説明したらいいか.........。
「これは単なる予想なんだが、多分俺たちは死んだことになっていると思う」
「僕もそう思う」
「同感です」
竜族が来て、なんか倒されて、起きたらいなかった。
少なくとも生きているとは思うまい。
俺なら思わん。
今俺たちが出て行ったら、根掘り葉掘り聞かれてしまうことだろう。
答えることができない部類の問を。
メンドくさいね。
「じゃあ、どうする? このままどっか行っちゃう?」
ルイが冗談じみて提案してくるが、それも一つの案だとは思う。
ドラゴニアへ姿をくらませ、それまでの縁を断ち切って大陸侵略へ乗り出す。
縁といっても、1週間弱の軽い縁だ。切ってしまっても支障は無いに等しい。
そもそも死んでいるという認識であれば、すでにその縁は切れてしまっているかもしれない。
考えれば考えるほど、それが一番なように思えてくる。
正直なところ、俺はあまりこの国に長居はしたくない。
貴族のおっさんを見たときから、違和感はずっと感じていた。
だがその時はフェイや子供が気になってそれどころじゃなかったのだが、今思えばあの空間は異常だった。
いや、前々からフェイに聞かされていたのだ。
あの時通りすがりの一般人たちは、おっさんたちを迷惑がっていた。
それと同時に、彼らはただ1人に向けて、軽蔑の視線を向けていた。
そう、あの人獣族の女性だ。
もう根本から、亜人を見下す風潮がこの国には根付いているのだ。
神金剛石のゲツェラも、アイルーンを否定的に見ていた。根は深いと見ていい。
対してアイルーンやサクヤ、エレンも、ゲツェラやチェシーのことを厳しい視線で見ていた。
と言うよりも、亜人勢の中で特に人族を嫌っている連中がそいつらだったといえる。
俺に向ける視線も、良いものではなかった。
唯一ドワーフのバイガローだけはチェシーと友好的に話していたが、それでもゲツェラには話しかけることはなかった。
ていうか、ゲツェラ嫌われすぎだろう。
まぁ、態度からして当然といえば当然なのだが。
そんなわけで、俺としてはこの国は、あまり居心地のいいところではないのだ。カームの国は差別意識が低かったからそうでもないが。
とはいえ、ここにいる事で、と言うよりも、神金剛石の亜人勢と親睦を深めることによって発生するメリットもある。
いつか俺が言ったように、大陸の侵略はできる限り俺自身ではなく、亜人の軍勢によって成し遂げたい。
そのために、各亜人種の最高戦力と言っても過言ではない神金剛石の面々と懇意になることは大きなアドバンテージとなる。
要するに、亜人とのコネを得られるのだ。
コネ。
コネクション。
関わり。
てばよ風に言えば繋がり。
手に入れておいて損はない。
まぁまぁのハイリスクではあるものの、圧倒的なハイリターン。
是非頂きたいものだ。
.........はぁ、仕方がない。
留まるか。
さっさと出て行くのが一番だが、それは俺にとってのものだしな。
侵略のために頑張るとしよう。
「一応、神金剛石のところに行こうと思う。あいつらと強めの関係を持っておきたいしな」
「.........関係......強めの.........? ......ハッ! まさかお兄ちゃん、サクヤさんとアイルーンさんを落としに!?」
「ルイちゃんそれは.........いや、どうなんでしょうか......。スガ様! どうなんですか!」
「んなわけないだろうがバカたれ」
俺をなんだと思ってやがる。
ちょくちょく美少女貴族の胸を揉み、幼女と一夜を明かし、森精族に求婚され、初対面の猫耳お姉さんの胸を揉みしだき、翼人族の体を弄って腰砕けにさせた魔なるものの王たる俺にそんな.........。
そんな............。
そん............な............。
な、なんだこの変態。
死んだ方がいいんじゃねぇか?
衝撃の真実に膝から崩れ落ちる。
マジかよ。自分じゃ紳士だと思ってたのに。
変態紳士だったとは。
*****♪***♪♪*******♪*****
個人的には気に入っていた。
自分は確かに、あの強大な力を持つ青年に恋をした。
そのあと瞬殺で振られたのだが。
あの一緒にいた女狐は気にくわないが、それでも家の者よりはマシだった。
ルイちゃんも可愛かった。
本当に。
食べちゃいたいくらい。
短い間だったけれど、あのレストランと、ギルドの隠し部屋での出来事は、本当に楽しかった。
あの女との会話でさえも、心のどこかでは楽しんでいたように思う。
久しぶりに心から笑った気がする。
だというのに、終わりは早すぎた。あまりにもである。
もとより自分は森精族。唯一寿命という観点で、最強の種族、竜族に追随するものを持つ人種。周りとは時間の捉え方が圧倒的に違う。
とは言え、そうでなくとも! 自分が森精族でなくとも! あまりにも短かった......!
もっと、会話を、対話を、関わりを。
欲してもいいではないか。
だが、いきなり現れた竜族が、奪っていった。
よく分からぬうちに倒され、気づいたら彼らはいなくなっていた。
自分ではどうしようもなかった。
相手は竜族である。
勝てる理由がなかったのだ。
それでも。
それでもだ。
もっと、話す時間が欲しかった。
まぁ、そう言ってももう無理な話だ。
彼らのことはバッサリ忘れてしまおう。
ひとまず腹が減ったし、どこか適当なレストランにでも入ろう。気分転換にもなるというものである。
.........入った店が彼と話した店とは、我ながら苦笑ものだ。
一抹の寂しさを覚えながら、カウンターの席に座る。
自分を見て顔が引き攣る店長に注文を告げ、カウンターに突っ伏した。
ため息を一つ。
「「.........ハァ」」
............ん? 今、ため息が重なって聞こえたな。
突っ伏した顔をずりずりと隣の席に向けると、顔の見えぬ女を挟んだ向こう側に、自分と同じように突っ伏した男がいた。
彼も、何か嫌なことでもあったのだろう。
そう思うと、多少の親近感が湧いてくる。
何か奢ってやろうかな.........。
男を見ていると、視線に気付いたのか、横目でこちらを見てきた。
途端、男はギョッとした顔となって跳ね起きた。
後ろにいたウエイトレスの持つスープを弾き飛ばしたのを気にせず、左右の女2人を寄せてコソコソと話し出す。
青筋を立てるウエイトレスの事は頭にないようだ。
あれ一応、私が頼んだスープなんだが.........。
「.........チッ」
舌打ち!? 3人の話の途中で舌打ちが聞こえたぞ!?
私何かしたかな.........?
少し話し合った後、意を決した様子で男が立ち上がった。顔はまだ見えない。
頭を数回ぽりぽりと掻いてから、気まずそうに振り向いた。
「............スガ?」
そこにいたのは、死んだと思っていた男だった。




