3-15 帰路
朝起きると、俺の両手がふさがっていた。
左手はルイが枕にし、右手は.........、
右手は...............
「............どうしようこれ......」
フェイが抱き枕にしていた。
抱き枕にしていると言うことは、つまり体全体で腕に密着していると言うことだ。必然的に俺の腕は豊かな双丘と太ももの付け根に挟まれることになる。
さらに顔も近い。少し前に顔を出せばそれだけで互いの唇がくっつく距離だ。
どうしよう。
どうしよう。
正直理性がヤバい。
これ以上ナニかあればすぐにでも襲ってしまいそうだ。
だと言うのにこのちょっと幸せそうな顔だよコンチクショウ!
少々セキュリティに問題がありますぞ。
「ぅん............んくぅ.........」
フェイが身をよじった!
↓
さらに深くへ!
↓
I am a man!
↓
stand up!
「............よし、襲おう」
「朝っぱらから何言ってんのさ」
幻聴か。
「幻聴じゃないよ! スルーしないで! 隣に僕がいるのに何しようとしてるんだよ!」
「何だルイか.........何ってお前そりゃあ......ナニしようとしてるんだよ」
「〜〜〜〜!!」
いつの間にか起きていたルイが、俺の胴体をポカポカと殴ってきた。
顔は真っ赤だ。実に可愛らしい。
胸は慎ましやかだ。実に可愛らしい。
よって、対象外である。
「貴様には関係ない! 黙って事の顛末を見届けておれ!」
「関係有るよ! 有り有りだよ! 仲間だよ!」
「しかし子供である!」
「でも100歳です! お兄ちゃんより全然年上です! て言うか、お兄ちゃん何かキャラ変だよ!?」
「情操教育に悪いだろうがぁ!」
「あんたが言うな!」
「お二人共うるさいです!!」
ヒェッ。
ルイとの口論でフェイが起きてしまったようだ。超ビックリした。
「まったく、寝起きくらい静かに出来ないんですか!」
「いや、なんかゴメン」
「ご、ゴメンなさい」
「ここはドラゴニアの政治家の方々も泊まっているんです。うるさくしたら迷惑でしょう!」
「おっしゃる通り」
「ゴメンちゃい」
「それに私も疲れてるんです。もう少し寝かせてください」
「え? 寝るの? この状況で?」
「はい?」
実のところ俺たちの位置関係は起きたところから変わっていない。
つまりフェイは俺の腕に抱きついた状況で叱責を飛ばしていたわけで.........。
「............あ」
みるみるうちに赤くなっていくフェイ。モジモジするのはいいけど、俺の腕から離れてからしてくれない?
飛ぶよ? 理性が。
スカイフィッシュのように。
この世界にはいるのだろうか。
「えと......そ、その.........お、起きましょうか!」
しどろもどろになりながら、場の散開を提案するフェイ。それに俺とルイは頷きつつ。
「「そだね!(ニヤニヤ)」」
「何笑ってるんですか!」
*****♪***♪♪*******♪*****
ビジネスホテルから出て、その足で地上へ向かう俺たち3人は、今、結構な窮地に立たされている。
「「「「「.................................」」」」」
一体何なのかと言うと、竜族の近衛騎士団に包囲されている状況である。
ムッチャ見てる。殺意を浮かばせ、それでいてどこか侮るような、嘲るような、そんな目だ。
そんなのが、計20人とちょっと。
まあまあの窮地である。
取り敢えずこっち見んな。
何ガン飛ばしてんだ、お?
何メンチ切ってんだコラ。
やんのかオラ。
いや、ここはできるだけ平和に行こう。
「えーと、一応聞いておくけど、おたくら何?」
「............何故貴様らのような者がこの国にいる? 脆弱な人族が! 『紛い物』よ。お前が連れてきたのか?」
「違うし、別に弱くないし、俺の質問に答えようか。何しにきたの?」
こうして質問してはいるが、奴らの目的は何となく察せられる。
おそらく、単純に警備の一環であろう。
俺たちの大陸侵略に対する援助の宣言は、上層部だけに知らされていたのだろう。まぁ、これだけの大ごとだ。協定を結ぶ前から公表するのは難しいだろう。
何せ、大陸全てを敵に回す協定なのだから。
竜族がいかに強大と言えども、多大な時間と労力と金がかかる。
そういうわけで彼らに非は無いのだが、はてさて、どうしたものか。
彼らを説得するのに吝かでは無い。双方に確かな理由があるのだ。無為に関係を悪化させる事はないからな。
ドゴォン! ドゴォン!
「ぐあっ!」
「何!?」
ただ、デコピンの1発や2発は勘弁していただこう。
ルイを『紛い物』と呼んだ代償である。魔王からの報復と考えれば安いものだ。
魔王とは理不尽な存在らしいからな。
「きっ、貴様! 何をした! 」
残念ながら、彼らには見えなかったようだが。
「デコピン」
「は?」
「デコピンだけど?」
「ふっ、ふざけるな! たかが人族のデコピンで竜族の戦士が吹っ飛ばされるわけがないだろうが!」
「いやまぁ、人族っちゃ人族だけどさ.........」
魔王だし、なんかよく分からん種族ついてるし......。
俺って何なんだろ?
高校生.........とは違うよな?
「お前ら! 何をしている!」
アイデンティティについて深く考えていると、聞き覚えのある声が響いた。
裂けた人混みの奥からやって来たのは、紅い髪で長身、意志の強そうな目の男だった。
ていうか、ガストロだった。
「あれ? スガさんじゃないっすか」
「す、スガ『さん』?」
「何してんだお前ら?」
「ハッ! 人族の不審者を見つけたため、包囲しておりました!」
「不審者ってお前.........いや、確かに不審者か.........」
「おい、ガストロ」
取り敢えず、誤解を解け。
「スガさん、さーせん。うちのモンが迷惑かけたみたいで。あ、もう行ってもらっても構わないっすよ。さいなら」
「たっ、隊長! それでは.........」
「あとお前ら、ちょっと言うことあるからこっち来い」
「またね、ガストロさん」
「ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」
「ルイ、フェイさん、別にいいっすよ」
「じゃあな、ガストロ」
端に身を寄せてかがみ、ボソボソと話し出したガストロ達を尻目に、俺たちはドラゴニアを出た。
ドラゴニアから繋がる洞窟を進むことしばし、奥の方に明かりが見えた。
久々の太陽だ。
目が痛ぇ。
「ああ、眩しいですね」
「目がっ! 目がぁぁぁああっ!」
ハロー、大佐。元気かい?
突然の登場を果たした大佐を軽くあしらって、洞窟から出る。
途端、フェイが大きく息を吐き出した。
「「はぁぁぁぁぁぁ......こ、怖かった......」」
フェイは怖かったらしい。それもそうか。
世界最強の種族が蔓延る国で平静を装っていただけでも賞賛に値する。
「で、なんでルイは怖かったんだ?」
「いやぁ、知り合いの冷たい眼差しと.........ガストロさんに襲われそうで怖かった......」
「「.....................」」
まぁ、アレだ。
襲われなくて良かったね、とだけ明記しておく。
*****♪***♪♪*******♪*****
サングレートに戻って来た。
瞬間移動で余裕でした。
取り敢えず、神金剛石勢のところに行こうか。
会合の途中でガストロがやって来たので、もともと何の話をしようとしていたのか、未だに分かっていないのだ。
ぐうぅぅぅ〜〜
だが、その前に飯だ。
朝飯もまだだからな。
今の腹の虫の飼い主は、あいも変わらずにフェイだった。
やって来たのはまたもやギルド前のレストランである。あの懇願の目の店主がいるところだ。
スープを飲みに来たぜ。
カランカランと音のする入り口を抜け、ギョッとして顔が引きつる店主を見据えてニッコリと微笑みながら真正面のカウンターに座る。
ニコニコ
に、ニコニコ......ぴくっ
「スープをください」
「はいぃっ! かしこまりましたぁっ!」
逃げるようにして厨房へ消える店主。
俺は顔をうつむかせて笑いをこらえている。
そこへ送られるジト目とジト目。
いや待て。フェイが怖がらせてる原因だからな?




