4-1 迷子
サングレートからライラスフォールまでは、普通徒歩で2週間くらいかかるそうだ。
きちんとした休息と、安全な道を通った最適なルート選択から導かれるこの所要時間だが、残念ながら俺たちには適用されない。
だって危なくないんだもん。
危険? はいどうも、危険こと魔王ですが?
休息? 寝ても起きてもあまり疲れに関係しない俺ですが何か?
全ステータスチート気味な俺の前に、常識的な数値は通用しないと思え。
俺には劣るが、竜族だっているしな。
目下の問題はフェイだが、俺が対処する。
おぶったり、抱っこしたり揉んだりマッサージしたり揉んだり、できることは沢山あるだろう。
下心はないぞ? 義務感と正義感と良心からくる行為だからな。
義務感3、正義感3、良心4くらいである。(なお、パーセント表示の模様)
とまぁ、そんな訳なので、実質的に所用する時間は1週間強で済みそうだよ。
そのはずだったんだよって言う話を、出発してから7日目の今日に言ったのさ。
今どこか?
だいたい、全行程の4割ほどだね。
うん、
普っ通〜に遅れてんだけど。
何でか?
理由としては、大きく3つ。
一つ、見積もりが適当すぎた。
何となくの考えじゃダメだってことがよく分かりました。
だが、これに関しては具体的な地図を作成していない国側が悪い。ハズだ。
俺は悪くないのだ。社会が悪い。
二つ、一回向かう方向間違えてる。
どうやらこのカルネア大陸、地球でいう南半球にあるらしく、太陽が南に上らないのだ。
それで北に向かって、2日無駄にして、サングレートに転移して再出発した、という事だ。
はいそこ、もっと早く気付けとか言わない。
そして三つ、森の中で迷ってる。今。
ココドコ?
*****♪**♪*****♪♪*****♪**
樹海の中を肩を落として歩く一行。
雰囲気はダラダラとしており、覇気など微塵もない。
嘘見たいだろ.........俺たち、魔王一行なんだぜ.........?
その魔王こと俺は、虚ろな目でとある一点に注目した。
「おお、金色のカブトだ。凄ぇ」
「お兄ちゃん、あれ魔獣。あとそれ今日5回目」
「スガ様しっかりしてください。寝ぼけてるんですか? 昨日しっかりと寝られなかったのでは.........」
「そうだよー、眠いんだよー。枕が悪かったんだね。もっと柔らかくてフワフワしてて弾力に富んでて.........」
「同じ事3回言った」
「適度に張りもあって2つもあって、吸い付きたくなるくらい母性に溢れた枕がいいな」
「じ、じゃあ、今日の夜はそ、その枕を使います......か.........?」
「いいのか?」
「いいワケないじゃん! ふざけんな!」
「ふざけてなんかいません! 私はいつだって本気です!」
「そういう問題じゃないと思うが.........あ、金色のカブトだ。凄ぇ」
結構やられてきている。
いや、別に体力がどうとかの話ではなく、精神的にグロッキーなのだ。
何せ、景色に変化のない樹海の中をかれこれ3日は歩き続けている。
何が一番嫌かと言ったら、虫だ。
蚊がこれでもかとたかってくる。
刺されても基本効かないからダメージ的な損害はないが、目の前とかにもたかってくるので鬱陶しいことこの上ない。
一回ストレスがBOMしてあたり一面消し飛ばしたこともあった。危うく2人を消してしまうところだったぜ。
その件については2人からこっ酷く注意され、俺を更にグッタリとさせた。
だから俺は今グッタリグッタリである。
.........ごめん。
疲れてるんだ。
だからさっさとこの森を抜けたいんだが............。
ハァ。
なんかもう、歩くのが億劫になってきたしなぁ。もうそろそろ地面に拘るのをやめてもいい頃だろう。
いや、むしろやめたい。
ということでやめます!
そうと決まれば即決即断有言実行先ず隗より始めよである。
「ルイ、フェイ。大切な話がある」
「何?」
「大切な話.........ああ、ドラゴニアとの協定のことですね」
............うぼぁ。
「.........何ですかその顔は。まるで............そう、無くしたものを見つけたかのような」
「え、お兄ちゃんマジで? 忘れてたの? マジで?」
「.......................................ぅん」
「ウソォ!?」
「スガ様それは...............えええ??」
「いやいやいやいや違うぞ!? 『ううん』って否定の言葉を口にしようとしたのさ俺は! そっかー、1個目の『う』聞こえなかったかー! しょうがない奴らだなーお前らぁ!」
「で、ですよね! そんなワケないですよね! 世界最強の魔王たるスガ様がそんな.........そんな............あれ? むしろスガ様だからこそ.........あれれぇ?」
「お姉ちゃんが若干情緒不安定気味になってる! お兄ちゃんどうすんのさ! 2つの案件でどうすんのさ!」
「ウルセェんだよクソチビが! 俺だってどうしたらいいか分かんねぇよ! 誰か助言プリーズ!」
ギャーギャーと騒ぎ出した俺たちに動物達が反応して森が騒がしくなる。
二重に騒がしくて、これが本当の『騒々しい』.........。
ごめん。
まだ疲れが取れないんだ。
はぁ、ルイに食われた枕が恋し.........ん?
うな垂れながら騒ぐという奇妙な荒技を敢行していると、急に周囲が白んできた。
いや、別に俺の言葉に白けたとかそんなのではなく、薄っすらと白くなってきている。
いや、濃くなってきている。もう5メートル先も見通せない。
霧だ。
地味に気温の高かった森の中を、背筋が伸びるほどの冷気が這う。
「フェイ、ルイ。こっち来い。固まれ」
すでに異変に気付き臨戦態勢に入っている2人を呼ぶ。
この霧は、恐らくではあるが人為的なものだ。雨も降っていないのにこの濃度は不自然だし、何より敵意を感じる。
背中合わせに三方を見張ったまま、時間が過ぎていく。
............3分.........5分.........8分......。
.........何も来ないんだが。
あれぇ? おかしいな。絶対人為的なもんだと思ったんだけど......。
そう思った瞬間。
「キャッ!」
フェイの叫び声が聞こえた。
「フェイ!」
どうしたのかと振り向くと、フェイの真正面の霧がオレンジ色に染まっていた。
否、其処だけではない。
一瞬目を奪われた隙に、あたり一面全てがオレンジの霧となっていた。
来たか!
と思ったのもつかの間、霧が少しずつ晴れていく。
薄い霧の世界で、それまでのオレンジ色をたたえるような橙の髪が映えた。
その男は橙の短髪を揺らし、マントを着て、眼帯でふさがったが為の隻眼で、呆れたように、残念がるように言うのだ。
「森がうるさいから見に来たら美少女がいたんで、胸の1つでも揉んで置こうと思ったら.........なんだよお前らかよ。すぐに胸隠すんじゃねぇよ。揉めねぇじゃねぇかよ。ツマンネ」
実に残念そうなジャックであった。
*****♪**♪***♪♪*****♪****
「とりあえず何、お前ら生きてたの? 凄ぇなオイ」
「あんまり嬉しそうじゃねえなオイ。もっと喜びに歓声をあげて小躍りしてもいいんだぞ? カボチャ野郎」
「するかよ。ケケ」
軽口を叩きあって歩を進める俺たち+カボチャ。
ジャックは実に話しやすかった。まるで、学校の同級生と会話するような気安さがある。
このくらいの何と無く軽めの関係が一番楽だと思うね。
というかこいつ。この気安さで貴族なのだ。威厳のかけらも見当たらない。
一応領地とか持ってるらしいが.........。
「ところでお前らさぁ、こんなとこで何してんの?」
「ん? ああいや、俺たちはちょっとお前に用があって、ライラスフォールに向かってるんだよ。まだ全然見えないけどな」
「......なぁ、ライラスフォールに向かうんだったら、何であんな道通ってたんだ?」
「..................」
.........ショートカットしようとして迷子になったなんて言え「ショートカットしようとして迷子になった」
「うおい!」
暴露したルイの方を見ると、ルイもこっちを見ていた。
何だか、しょうもないものを......例えるなら、出来の悪い息子を見るような目で。
何だろう。無性に腹が立つ。
取り敢えず、頬をつねっておいた。
「くっ、かか......ケケッ.........迷子とかショッボっ......!」
こ、この野郎!
笑うなぁ!
ショボいこと自覚してるから、余計に響くだろうが!
4章です




